私の卒業「18歳、つむぎます」~若い役者さんの「今」を切り取る仕組み~

昨日封切られた、私の卒業「18歳、つむぎます」という映画を見てきました。さくら学院の卒業生のSOYOさん(吉田爽葉香さん)と、佐藤愛桜さんが出演されていたので、推し活動の一つだったんですが、本当に、若い人たちを心から応援したくなる優しい映画。今日はその感想を。若い役者さんの、今しかない輝きを記録として残すことの意味、みたいなことを中心に。

映画とかドラマっていうのは芸術であると同時に、「記録」なんだっていうことに気づかされたのは、どなたかが書いていた、松田優作さんの傑作ドラマ「探偵物語」の評論でした。松田優作さんの演技や、村川透さんの演出、那須真知子さんの脚本などを評した文章の中で、「この当時の渋谷の街並みが克明に記録されているのも意味深い」という文章があって、なるほどなぁ、と思った。よく言われる話だけど、「あの映画の時のxxさんの美しさは忘れられない」とか、役者さんの全盛期であったり、デビュー当時の初々しい姿を切り取った映像って、作品そのものの価値だけじゃなく、その役者さんの記録、という意味での価値もあるんだよね。原節子さんの時代から、吉永小百合さん、松坂慶子さん、薬師丸ひろ子さんや原田知世さんに至るまで、銀幕のスターたちの姿を文字通り「焼き付けた」映画のフィルムっていうのは、役者さんの歩んでいく成長や円熟の記録としての意味を持っている。

自分がさくら学院というグループに惹かれたっていうのも、このグループ自体が、無限の可能性を持っている若いパフォーマーたちの「今しかない輝き」を記録する仕組みとしての機能を持っていた、という点も大きい気がする。その年度にしかない輝きを残して毎年生まれ変わっていくグループ。その活動はCD、DVD、BD(さくら用語で「デロ」という)で記録され、この未来のスーパーレディ達の原点として残される。

「私の卒業」プロジェクトというのは、ドラマ「推しが武道館に行ったら死ぬ」の監督でもあった高石明彦さんが立ち上げた若手俳優発掘プロジェクト、とのこと。この手の若者育成プロジェクトっていうのは、パフォーマーにあこがれる若者たちの夢を「オーディション受験料」「レッスン料」という金銭に変えて稼ごうとするあくどさが垣間見えることもあるんだけど、この「私の卒業」プロジェクトは、小学館=ちゃおと結びついたアミューズの支援もあるようで、バックがしっかりしている分、きちんと「発掘」「育成」という仕組みが機能している印象があります。以前にはさくら学院の卒業生の新谷ゆづみさんも参加していて、YouTubeの短編ドラマという形で、初々しい演技を見せてくれていました。

今回、「18歳、つむぎます」という映画を見た時、このプロジェクトの価値は、そういう「若手育成・発掘」という点と合わせて、冒頭にも書いた「記録」という意味も大きいなぁと思ったんですよね。若い役者さん達の、10代にしかない輝き、表情をしっかり映像として残すことの意味。しかもこのプロジェクトは、「街おこし」の意味も持たされていて、新谷さんが出演した第二期は、信州千曲市で撮影されていたし、今回の「18歳」は広島県福山市。映像における「記録」という意味が、若い役者さんたちの「今」の記録であり、その地方都市の「今」を記録する、という意味も持っているんだね。そして、今回の「18歳、つむぎます」においては、18歳から成人になる、という制度変更がなされたポストコロナの「時代」そのものも記録されている。役者さん、街、そして、時代。

3つの物語が、3種類の糸のように、一つのイベントに向かって収束していく、という高石明彦さんの脚本は、そういう若者たちの「今」を、繊細に優しく切り取っていく。絶望やすれ違いはあっても、悪意や暴力はなく、お互いを思いやり、愛する優しい気持ちの交流に終始する物語。世の中にあふれる性や暴力のドラマと比べて、甘ったるくてキレイすぎ、という批判もあるかもしれないけど、別に性や暴力を持ち込まなくたって十二分にこの子達の抱える「今」の課題を切り取ることはできるんだから、いいよねぇ。こういう優しい視線って、舞台になっている福山の街の優しいたたずまいにふさわしいと思う。

北川瞳監督は、ドラマ「推しが武道館に行ったら死ぬ」でも見せてくれた光の演出を随所に交えながら、瀬戸内海の陽光に溢れた温かな街並みと、若い役者さん達の、「今」しかない表情と輝きを印象的に見せてくれます。一人一人の役者さんの表情をしっかり見せることに心を砕いている感じがあって、それが逆にフレームや編集の自由度に制約を与えている感じもあるけど、制約があるから逆に引き締まったり、ダイナミックになる画面もある。最後のランウェイのシーンの生徒さん達の表情と鞆の浦の波の光の共演は本当に素晴らしかったし、輝く陽の光の前にチラつく天気雪が、若者たちを包む時代の冷たさ、厳しさを象徴しているようで、自然すら味方につけた奇跡の瞬間の記録だったなぁって思います。

役者さん達は皆さん素晴らしかったけど、個人的には、藤井大成役の吉田晴登さんの陰影ある表情と、北村祐希役の加部亜門さんのメリハリの利いたお芝居が好きでした。お目当ての一人のSOYOさんは脇役だったけど、画面にいるだけでなんとなく空気が和む、というか、ふわっとする感じが素敵。

そして何より、佐藤愛桜さん。言葉で感情を迸らせる伊礼姫奈さん(セリフの勢いと説得力が素晴らしい)に対比させるように、表情だけで語る演技が多い難しい役だったと思いますけど、視線の強さ、凛とした佇まい、そして短いけど力と思いのこもったセリフで、決して受け身ではない、自分の強い思いを、愛を相手にぶつけていく強さを全身で表現されていて、魅入られました。最後の涙には思わずもらい泣き。

こういう「若い役者さんの今を映像として残す」という仕組みとして、以前は「3年B組金八先生」というキラーコンテンツがあったんだよね。加部亜門さんなんか、浜田岳さんに通じる雰囲気持ってたりする。「3年B組」がなくなってしまって、定期的に若い役者さんを発掘、育成する映像コンテンツって見あたらないよなぁ、って思います。テレビのバラエティ番組では若いパフォーマーが次々出てくるけど、ドラマ・映画、という意味では、若い役者さんの発掘・育成する仕組みってあんまりない気がする。むしろ2.5次元ミュージカルとかの舞台がそういう仕組みとして機能しているのかな。

そういう意味でも、「私の卒業」プロジェクトって貴重だし、凄く意味のある仕組みなのかもしれない。第四期、とのことですけど、このまま何期も続けていって、沢山の若者たちの「今」を記録しながら、彼らの「未来」への扉を開いてくれたらなって思います。

若者たちに幸あれ。