やっぱりすごい人はすごい

先週末、今度の日曜日の演奏会をステージ・マネージャとしてお手伝いするガレリア・フィルハーモニーの練習にお邪魔しました。練習会場に入ると、クラリネットの席に、見慣れないような見たことのあるような大柄な紳士がにこにこと座ってらっしゃる。以前、ガレリア座の本公演でも、木管トレーナーとしてお世話になった、東フィルの首席クラリネット奏者、杉山伸先生でした。女房や娘ともども、「魔弾の射手」序曲の練習を通して聴く。ちょうど、第一クラリネットがお休みだったこともあり、杉山先生も一緒にアンサンブルに参加してくださっていました。

のっけの音から、クラリネットの音がものすごく「ビン」と立っていて、驚愕。女房に言わせれば、「音量が大きい、ということじゃなくて、すごく響くクリアな音なんだね」とのこと。オケの後方に座って見学していたのですけど、杉山先生が演奏されている後姿が、クラリネットパートだけじゃなくて、曲全体のフレーズ感を見事に表現されていることにも驚く。ただ座って吹いている、なんて感じじゃなくて、木管パート全体に、あるいはオーケストラ全体に、ものすごいオーラを出してらっしゃって、フレーズを引っ張ってらっしゃるのが分かるんですね。すごいなぁ、と思いながら拝見していました。

途中から、弦パートにも色々とアドバイスを飛ばされているのですけど、この一つ一つのアドバイスがすごく面白い。クラリネット奏者でらっしゃるんですが、弦のパートが鳴らす和音や、ピッチカートの音色にまで、細かい指示を飛ばされる。その一つ一つが、すごく面白いんです。

「そこの和音は、悪魔ザミエルの最も対極にある所で一つの解決をもたらす和音なんです。その和音をすごく大事に、美しく鳴らさなければ」

「そのピッチカートは、ザミエルの息絶える音。そんなに平穏に鳴らすのではなくて、断末魔の音にしないと」

「ここのクラリネットソロはかなりきついんです。いいオケだと、伴奏の弦の人たちが、ちょっとこの刻みのテンポを上げてサポートしてくれるんですよ。」

全体の音楽の作り出す世界やイメージをきちんと把握された上で、部分部分の持つ全体に対する意味付けをすごく明確にしてくれるアドバイス。部分部分がてんでバラバラに自分のパートを演奏していくのじゃなくて、全体の中での自分たちの役割をきちんと理解しているからこそ成立するアンサンブル。音楽のことはよく分からない私ですけど、すごく面白い時間を過ごさせていただきました。

女房に言わせれば、「舞台に立つソロ歌手だって、同じくらいに全体と部分を見渡しながら、オケを引っ張る歌を歌わないとダメなんだぞ」とのこと。そんな余裕も意識もなく、ただ歌い飛ばしてました。すみません。時間に余裕がなくって、途中で失礼してしまったのだけど、杉山先生と少しお話することができました。「オペラ舞台をやりながら、オケの演奏会もやるってのは、すごくいいと思いますね。ウィーン・フィルみたいですよね。いいなぁ」とおっしゃる笑顔が本当に穏やかで、プロの音楽家、という言葉で印象されるような近づきがたい感じの全然ない、とても優しい先生です。

前にも書いたことがありますけど、一流の音楽家っていうのは、本当に、打算とか計算なしに、純粋に「音楽が好きだぁ」というオーラを出してらっしゃる。そして、表現ということに対して謙虚だし、我々アマチュアの表現に対しても、妙に高いところから見下ろすような感じがなくって、すごく誠実です。アマチュアの心を持ったプロの演奏家…ということなんでしょうか。杉山先生のご指導やご期待に応えられるように、裏方の私としては、舞台に立つ皆さんが気持ちよく演奏できるように、精一杯サポートしようと思います。9月10日(日)は、みなさん、セシオン杉並へGo!