ネット配信さまざま

コロナ君はまだまだ暴れてはいますけど、感染症対策をしっかり取った舞台活動もかなり再開されてきましたね。もう、「ここまでやったんだから感染者が出てしまったら不運としかいえないよねぇ」という感じなんだけどさ。

とはいえ、やはり現時点での有料パフォーマンスの中心はネット配信。ということで、今日は、推しのアイドルのネット配信から、女房がやっているオペラ活動関連のネット配信の話、面白いなぁ、と思った配信コンテンツその他、色んなネット配信に触れた雑感をつらつらと。

観客入り上演が急遽無観客になってしまった代替手段、としてネット配信が使われた初期の頃は、例のびわ湖のワーグナー上演みたいに、記録映像としては貴重かもしれないけど映像コンテンツとしての完成度は度外視されたものが多かったと思います。その後、これだけネット配信が一般的になってくると、画面に視聴者をしっかり引き留めておくにはカメラワークや字幕、その他の各種映像上のギミックが必要、という認識が一般的になってきている感じもする。でも、自分も含めて、普段舞台をやっている人って、そういう「映像編集」というノウハウを持ってないんだよね。一期一会のライブ空間を共有することで自己表現する人たちなので、舞台を映像に残すのって、あくまで「記録」としての意識が強い。オペラ歌手とか、普段映像を通じて表現していない人たちが、配信コンテンツ制作に四苦八苦している話を結構聞きます。

そういう意味で、色んな音楽家さん達の試行錯誤が見えるのが、東京都のやっている「アートにエールを」という配信プログラム。助成金も出る、ということで、YouTubeで様々な方々が参加して思い思いのコンテンツをアップされているんですが、これがまさに玉石混交。一番多かったのが、自宅でイヤホンつけて歌った映像を貼り付けているバーチャル合奏やバーチャル合唱で、これは新日本フィルがテレワークで作り上げた「パプリカ」で有名になった手法ですよね。でも、これがとにかく次から次へと出てくる。残念だけど、スマホで撮影したただの映像なので、なかなか集中して最後まで見るのは厳しいものが多い。そりゃ、小曽根真さんみたいな一流の方が演奏してれば、ただのスマホ動画でも見入っちゃうのかもしれないけど、それでもそれなりの音響設備も必要になるしねぇ。やっぱり、思わず見入っちゃうコンテンツって、洒落た映像編集とか面白い合成とかを使っている作品になっちゃう。もちろん、どこかの河原で4人並んでひたすらホルン吹いてる、なんていう映像が逆に映像ギミックとして楽しめたりもして、この「アートにエールを」という企画は凄く面白かったです。ちなみに最近は、観客数を制限したライブの収録動画を上げている方も多いようですね。

クラシックの世界から離れて、私の推しのアイドル系の話。アイドルさんが所属している大手芸能プロダクションとかは、当然だけどTVという媒体での映像コンテンツ制作に慣れているので、アイドルグループの配信ライブとかは映像コンテンツとしても完成されたものになっているのが多いですよね。でもそうすると、収録したライブ映像を編集したコンテンツが配信されるものも多くて、どうやってそこに、一期一会感、ライブ感、といったプレミア価値を付加していくか、というのが結構課題になるのかなぁ、って思います。

山出愛子さん、という、さくら学院の卒業生のシンガーソングライターが先日配信したLINE LIVEとかは、そういう「ライブ感」が色んな意味で満載で、それが凄く面白かったんですよね。アミューズの歌い手さんなので、カメラワークやステージ照明といった作りこみはプロ仕様なんだけど、いきなり冒頭で、伴奏のピアノのPAから音が出なくて、一曲目を二回演奏するトラブル発生。途中のトークコーナーのアドリブ感も素敵だったし、一発撮りの「ライブ」という環境の中で、声や指が震えてしまう演者の緊張感が伝わってきたり、なんか、昭和の生放送の歌番組ってこうだったのかもなぁっていう、まさに一期一会の体験をさせてもらえました。

コンテンツ配信からどうやって収入を得るか、という有料配信の問題も色々とハードルが高いみたいですね。特に著作権の問題が結構大変みたいで、ライブ舞台で演奏するだけなら、集客数やチケット代などで計算される著作権料を支払えば済む話なんだけど、有料配信、となった瞬間に、別の著作権の問題が出てくる、というトラブルもあるようです。知り合いがライブ舞台の動画を有料配信サービスに乗せようとしたら、この著作権料の壁にぶち当たってしまい、結局有料配信を断念した、という話を聞いたことがありますし、推しのさくら学院が毎年やっていた、「歌の考古学」というライブパフォーマンスが、昔の歌謡曲などを題材として取り上げるために、著作権の壁を越えられなくて、ライブ配信を断念している、という話を聞いたりしました。著作権だけじゃなく、興行としてネット配信を成り立たせるために、チケット代としてお金を回収したり、グッズを購入してもらうついでにURLやパスワードを配ったり、いわゆる「投げ銭」システムを活用したり、様々な方法でなんとか採算を取ろうと頑張っている話もよく聞きます。

一方で、ネット配信って面白いなぁって思うことも多々あって、前述の「アートにエールを」とか見ていると、今まで知らなかった演奏家の方々の素敵なパフォーマンスに出会えることもあったりする。ネットが出会いの場を拡張している、という効果も確かにある。それを先日実感したのが、アメリカ在住の知り合いがシェアしてきた、Tacoma Little Theatreという小劇場がやったZOOMによる朗読パフォーマンス映像。下記のYouTubeチャンネルで見ることができます。

youtu.be

普通の市民ボランティアも含めた役者さん達が、第二次世界大戦下の在米日系人差別と虐待の記録(当時の日誌など)をZOOMで次々と朗読する、という、大変シンプルなパフォーマンスなんですけど、これがライブパフォーマンスとしてすごく面白かったんです。少し前に三谷幸喜さんたちが仕掛けた、「十二人の優しい日本人」のZOOMによる読み合わせとかもそうでしたけど、朗読パフォーマンスとかって、ネット配信に向いているのかもなって思います。動きや演技を封じられた、制約された表現の中だからこそ、逆にメッセージや役者の内面がクリアに見えてくる、というか。でも単純に、普段だったらシアトルの小さな劇場で上演されるパフォーマンスを日本で見ることなんてありえないけど、このコロナのおかげでそういう劇場の存在やパフォーマンスを知ることができたわけで、コロナが世界を一つにつないだっていう側面もあるんだなって思います。

ネット配信がつなぐ新しい出会いもあるし、ネット配信による制約が生み出す新しい表現や研ぎ澄まされてくる映像表現もあるだろうし、ライブ感覚がより高い付加価値になっている側面もある。このコロナの時代に発達したネット配信という表現ツールは、これからも一つの表現スタイルとして定着発展していくんでしょうね。