パフォーマンスにおける「笑い」あるいは「諧謔」のパワー

最近あんまりBABYMETALやさくら学院のことをこの日記に書いてなかったんですが、久しぶりに。最近の彼らのパフォーマンスを見てちょっと思ったことを。

先日のBABYMETAL幕張2Daysで、初めてライブ披露された「Oh! MAJINAI」と「BxMxC」が、欧米も巻き込んで無茶苦茶盛り上がっているみたいですね。前者はSABATONのボーカリスト Joakim Brodénが増殖してコサックダンスを踊るインパクトMAXの映像、後者は巨大なフォントの漢字がスクリーンに踊る映像をバックにすぅさんが聞かせるラップの完成度の高さが話題なんだけど、両者に共通するのは、なんだか笑えるユーモアあふれるパフォーマンスになっている所のような気がしています。

自分的には、以前のBABYMETALのパフォーマンスですごく好きだったのが、そこかしこに溢れるユーモアだったんですよ。TOKYO DOMEの冒頭に流れたシンゴジラのパロディ映像もそうだし、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」「いいね!」「おねだり大作戦」みたいなユーモアとキュートさが前面に押し出された楽曲はもとより、代表曲の「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「ギミチョコ!」にしても、ゆいもあのスクリームパートに現れるちょっと笑えるフレーズが曲にキュートさを加えていて、それが逆に、曲の持っている真っ直ぐなメッセージを胸にじわっと届けてくれるような感覚があって、この人たちは確信的にこういうことをやってるな、と思ってたんです。

「笑い」あるいは「諧謔」というのは、既成概念や時代の束縛を破壊するパワーを持っていて、それは世紀末パリを席巻したオッフェンバックが自作のオペレッタで、当時の最高権力者であるナポレオン三世を徹底的に戯画化して笑い飛ばした頃から変わらない。既存勢力が目くじら立ててくれば、「だんな、洒落ですよ洒落。洒落が分からないとはだんなも無粋だねぇ」なんて笑いに紛らせてごまかしてしまう。でも、その笑いの裏にあるメッセージ性の強さや、音楽に対する真摯な姿勢や課題認識は、確実に既成概念を破壊し、次の時代を開く力になっていく。

BABYMETALがMETALの既成概念を突破した要因は沢山あると思うんですけど、その中の一つに、この「諧謔性」「ユーモア」、という要因もあったんじゃないかな、と思うんです。本気のMETALサウンドと、三姫のアイドル性をつなぐ接着剤としても、この「ユーモア」という要素はすごく重要な役割を果たしていた気がする。その「ユーモア」がちょっと後退してしまって、もっとシリアスな、未来へ前進する強い意思のようなものが前面に出てきていたのがDARK SIDE時代で、あの頃のパフォーマンスにはどこか、ユーモアや笑いが入り込む余裕がなくて、もっと切羽詰まった緊張感と、それが生み出すパワーに満ちていた気がします。「Elevater Girl」には若干そういう諧謔性が現れているんだけど、DARK SIDE時代にはこの楽曲も非常にパワフルな楽曲としてパフォーマンスされていた気がします。

METAL GALAXYが投下されて以降、その代表作になる「PA PA YA!!」あたりから、ちょっと以前のユーモアが垣間見えるようになってきて、それがある意味爆発したのが「Oh! MAJINAI」だった気がするんですよね。METAL GALAXY発表後のインタビューで、すぅさんが、「一番好きな曲は?」と聞かれていて「Oh! MAJINAI」と答えていて、この人はこの曲の破壊力と、この曲が持っているMETALとIDOLとユーモアのバランスの良さが分かってたのかなぁ、と思う。

そういう意味でも、Avengersシステムを取り入れた最近のBABYMETALのパフォーマンスには好感度が高いんですが、一方で、彼らの出身母体のさくら学院が、非常にロック色の強いカッコイイ楽曲に傾斜しつつあるのが面白いなぁって思って見ています。昔のさくら学院には、「賢くなれるシリーズ」という、中学校の授業内容を楽曲に仕立てたアイドルらしいキュートでユーモアあふれる楽曲があったのだけど、2016年度の「メロディック ソルフェージュ」を最後に、作られなくなってしまった。以降、2016年度の「アイデンティティ」、2017年度の「My Road」、2018年度の「Carry On」、そして2019年度の「アオハル白書」と、さくら学院の新曲は急速に彼女たちの世代の葛藤や時代を反映したメッセージ性の強いロックチューンが中心になってきている。2018年の「Fairy Tale」や、2019年の「Merry Xmas to You」のようなキュートな楽曲やラブソングもあるけれど、ユーモアやパロディ感覚のようなものはかなり後退してしまっている。特に2019年のさくら学院は、KANO-METALでもある藤平華乃さんのパワーあふれるキャラと、裏番ともいえるオピニョンリーダの森萌々穂さんのパッションに牽引されて、ライブのパフォーマンスも無茶苦茶カッコいいロックなパワーが溢れているんだよね。

ただ、個人的には、BABYMETALが「笑い」「諧謔」を取り戻してステージの魅力が多層化したみたいに、さくら学院にも、かつてのユーモアの要素も少し残しておいてほしい気はするんですけどね。「賢くなれるシリーズ」はどれも名曲が多かったし。2019年度のさくら学院のカッコよさには心底シビれるんだけど、「Wonderful Journey」や「ご機嫌!Mr.トロピカロリー」を復活させてくれたり、一種の「賢くなれるシリーズ」ともいえる美術部の「C'est la vie」が発表されたりした2018年度のテイストも、どこかで残しておいてほしいなぁ、なんて思います。