プロ級だよね、と言われるのもちょっと違う

昨日書いた「プロ」に関する文章について、FACEBOOK経由でコメントその他もらったりして、まぁそんなにこだわらなくてもいいし、あんまり言うとちょっと自慢たらしく聞こえるんじゃないの、というご意見もいただきました。まぁ実際その通りで、うちの女房も自分から「私はプロの歌手です」なんて言わないし、私が女房のことを「プロのオペラ歌手なんだよぉ」なんて人に言うのに、ちょっと身内自慢の要素が加わっていることも否定しません。

でもね、音楽業界そのものが、この「プロ」か「アマチュア」かというのをパフォーマーに突き付けてくる局面や、自己主張してくるケースも結構あるんですよ。具体的な例でいうと、私が以前受けたコンクールは、アマチュア部門とプロ部門に分かれていて、受験する時に、「私はアマチュアです」「私はプロです」と宣言しないと受験できない。私の受けたコンクールだけじゃなくて、他にもそんなコンクール一杯あります。

もう一つの例でいうと、以前ガレリア座日本初演したカールマンのオペレッタ「シカゴ大公令嬢」を、別の団体が上演した時に、『プロ日本初演!』という冠をつけて上演したことがあって、これもかなり違和感があったんです。そういう、「君はプロなの?」「僕はプロだよ」という宣言をしないといけない局面が、この業界だと結構ある気がするんですよね。

まぁそういう「プロ」とは何者か、という話は置いておいて、今日は、前回書いた、パフォーマンスの評価としての「プロ」という言葉について、ちょっと思うことを書きたいと思います。

ガレリア座を中心として色んな舞台に出演させてもらうと、時々すごく心優しいお客様から、「プロ並みだよね」「プロ級だよね」なんていうお褒めの言葉をもらうことがあります。それはそれで凄くありがたいお言葉なんだけど、自分のパフォーマンス、特に、「歌唱」という点については、やっぱり決定的に「自分はプロじゃないなぁ」と思うんだよね。

すごく抽象的な言い方になってしまうんだけど、歌を与えられた時に、そこから見える世界の幅が決定的に狭いよなぁ、という感覚なんです。そりゃあ大学の頃から歌い始めて、もう30年以上歌ってるわけですから、普通のヒトよりは歌う身体もできているし、楽譜を見て多少偉そうなことも言えます。でもね、決定的なのは、「歌を歌いたくてしょうがない」と思うかどうか、という点なんじゃないかなって。

昨日の記事に対して、FACEBOOK経由で、「プロフェッショナル~仕事の流儀~」の時計職人さんが語った、プロフェッショナルに関する言葉を紹介くださった方がいました。曰く、

「食える食えないは関係ない。生きるか死ぬかでもない。自分はどうしてもこれがしたい、これしかできない、だからこれをする。それが本物のプロであり自分の仕事に対する尊敬である。」

この言葉を見て、自分の中の違和感の理由が分かった気がしたんだな。私は歌が好きかもしれないけど、どうしても歌いたい、という所まで駆り立てられているか、といえばそうでもないんです。自分が本格的なオペラよりも、お芝居やキャラクターも合わせた総合力で勝負できるオペレッタ舞台が好きなのもそういう所で、単に歌を聞かせるだけじゃなくて、色んな他の要素を加えたパフォーマンスが好き。総合力で勝負、といえば聞こえはいいけれど、結局は、「歌」に真剣に向き合うことから逃げてるんですよ。

「プロの歌手」として自分自身を商品にしている人は、やっぱり「どうしても歌が歌いたい」「歌が楽しくて仕方ない」っていう感覚と、その感覚の中で自分の歌をさらに磨き、歌い続けるために自分の歌い手としての商品価値を高める努力を怠らない人だと思うんだよね。この舞台で中途半端な歌を歌ったら次がない、という危機感と覚悟を持ちながら一つ一つの舞台に向き合っている。そういう真剣勝負をしている「プロ」の人たちを身近に見ているし、自分がそこまで歌に対して本気で向き合っていないのも知ってるから、「プロ並みだよね」なんて言われると、違うよなぁ、って思っちゃう。

もちろん、舞台に立つからには、自分がプロかアマチュアか、ということは無関係に、お客様に対してできる自分の全力をぶつけるのがパフォーマーとしての礼儀だと思うし、必死にやります。その必死の姿勢やそこから得られる感動を評して、「プロ並みだよね」と言って下さるのはありがたいけど、でも自分は「歌」でプロ並みのパフォーマンスはできないし、そこまで「歌」に対して向き合う覚悟も姿勢もないなぁ、と。

卑下する気は全然なくて、「歌」以外の、演技とかナレーションとかについては、一流のプロには及ばないけど、そこそこお金を取れるレベルのパフォーマンスもできる自信はあるんです。じゃあその自信ってどこから来るの、と言われると、これも抽象的な言い方になっちゃうんだけど、セリフや演技プランを与えられた時に見える世界がすごく広くて楽しいってことなんだな。楽譜から見える世界よりもよっぽど世界が広がるし色んなアイデアも出てくるし、とにかく楽しい。一つ一つの舞台で色んな演技や構成を考えるのは大好きだし、いつもそういう妄想をしています。

でも歌はね・・・正直、そこまでのめりこめないんだなぁ。一つの歌に一生懸命取り組んで得られる高揚感も勿論理解できるし、経験もあるけど、「それがないと生きていけない」という所まで至ってない。そういう自分に対して、「プロ並みだね」と言われると、歌がないと生きていけない、と真摯に歌に向き合っている本当の「プロ」の人たちに対して、本当に申し訳ない気になってしまうんです。

もちろん、プロの中にも、舞台に対して全力で臨む姿勢がなかったり、びっくりするくらい歌に対して不真面目な「自称プロ」もいます。どんなに実力がなくても、お客様に対して自分の全力を届ける、というのがパフォーマーとしての礼儀。その礼儀を「プロであれ」という言葉で語る人もいるので、「プロ」という言葉って本当に多面性を持っているなぁ、とは思う。

あまりまとまらなかったのだけど、最後に、私がパフォーマーとして尊敬している中元すず香さん(BABYMETALのボーカリストSU-METALさん)が、アイドル時代に言った言葉をちょっとアレンジして載せておきます。最後はベビメタかよ、と言われそうだけど、パフォーマーとして、舞台のプロとしての基本姿勢みたいなものが語られている気がして。

「自分たちがどれだけ恵まれた環境の中で歌って踊れているか・・・(中略)・・・最高の笑顔をステージで見せること、精いっぱいの歌とダンスを見てもらうこと、一つ一つの音楽に対する向き合い方を一人一人が意識すること・・・」

舞台人として当たり前のことかもしれないけど、これをちゃんとやるのは本当に難しいこと。一つ一つの舞台に対してこの姿勢を保ちながら、「歌がないと生きていけない」という覚悟と強い思いを持っている「プロの歌い手」に対して、アマチュアの歌い手として、敬意と尊敬を忘れないようにしたいといつも思います。