シャンソン・フランセーズ9「ジュテーム!」~変化するからレパートリーになるんだよね~

年末のこの一週間、3つのライブ現場(一つはライブビューイング)に参戦するという充実の一週間でございました。今日はその感想を一気に書こうと思います。しかし「参戦」という単語を使うあたりがドルオタっぽくて非常に嫌な感じですね。他にいい単語が浮かばないんだよなぁ。困ったもんだなぁ。

ということで、まずは、12月26日に浜離宮朝日ホールで開催された、東京室内歌劇場創立50周年記念FESTIVALの感想。お目当てだったシャンソン・フランセーズ9「ジュテーム!」の感想を書きます。

今年で創立50周年を迎えた東京室内歌劇場。女房が編集を務めた50周年記念誌の発行を含め、先日めでたく完結した青島広志先生監修の「東京室内歌劇場の歩み」などのイベントが企画され、上演されてきました。今回のフェスティバルはその締めくくりということで、東京室内歌劇場が取り組んできた様々な企画の中から、6つの企画を選び出し、浜離宮ホールを一日借り切って次々に上演していく、という、なんとも盛りだくさんな催し。私は、日本歌曲、シャンソンオペレッタ、という3つのコンサートが行われた昼の部に参戦してきました。(だからその単語を使うなと)

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シャンソン・フランセーズは、ピアニストの田中知子さんがプロデュースしている東京室内歌劇場の人気企画なんですが、ももクロの大ファンである田中さんらしいエンターテイメント性あふれた舞台が特色で、お笑いあり涙あり、派手な照明演出あり着ぐるみあり、という、何でもありの昭和歌謡ショウのような構成が毎回楽しみなんです。なんですが・・・今回は40分の短縮版。しかも会場は浜離宮ホール、ということで、いつもの渋谷伝承ホールのような仕掛けが組めない。字幕が準備できないし、照明はシンプルな明暗だけで、伝承ホールで必ず使っていたミラーボールもない、挙句に「特別清掃が必要になるので、ラメ・スパンコール入りの衣装はご遠慮ください」とまで言われたそうで、この制約の中で、どう客席を楽しませてくれるのか、ある意味楽しみでもあり、ちょっと不安でもあり、という思いで開演を待ちました。

まぁでも、ふたを開けてみれば、字幕のない所は日本語訳詞で補い、短い時間の中で衣装をくるくる変えて(もちろん着ぐるみもあり)華やかさを生み出し、定番のお笑いナンバー、富永美樹さんのアイドルコロラトゥーラ、シリアス曲、橋本美香さんの演歌、昭和歌謡曲とジェットコースターのような振れ幅の大きさで、全然飽きの来ない40分。終わってしまえば、充実感もあり、あれ、もう終わっちゃったの、という次への期待感もある、さすがの舞台に仕上がっていました。

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居並ぶだけでケレン味たっぷりでしょ。

今回は、関定子さんが歌った「夜明けの歌」(圧巻!)以外は、全て過去のシャンソン・フランセーズで取り上げたレパートリーで、そういう意味でも、鉄板のレパートリーを持っているってのは強いんだなぁ、と思いました。その曲をどう歌えばお客様に受けるか、しっかり分かっている曲を持っている、というのはこのシリーズの強みで、だからある程度場所を選ばずプログラムが組めるんだよね。

でももちろん、同じレパートリーを続けてやっていると、お客様の方にも演じる側にも一種マンネリ感が出てくる。そういう意味では、以前、伝承ホールでやった時には全編フランス語で演じられた、田辺いづみさんの「アコーディオン弾き」や、大津佐知子の「私の神様」を、今回、全部ないし一部日本語訳詞で歌った、というのは、字幕がないという制約を逆手に取って、曲の新しい生々しい魅力を客席に届けることができた新しい試みだったような気がします。笑いと涙を織り交ぜるこの企画の中では、どちらもシリアス部分、というか、「涙」の部分を担当する曲なんですけど、日本語訳詞で歌われることで、シャンソンというジャンルの持っている「市井の人々の人生を歌う」という性格、地に足着いた生活感というか、生々しさが結構しっかり出た気がする。若干手前味噌になりますけど、「私の神様」では、日本語の部分でもフランス語の部分でも涙が出ました。

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「私の神様」の衣装。すっかり自分のレパートリーになりましたね。

笑い、というのは人の心の防御壁を下げるので、「辻馬車」のようなコミックソングで無防備になった所に、ずどん、と泣ける曲を持ってこられると、本当に心の一番深い所にまでぐさっと突き刺さってきてしまう。田中さんの構成はいつもそういうメリハリが効いていて、すごく上質の人情喜劇を見た時みたいな充実感があるんです。でもそういうメリハリをしっかりつけるには、それぞれの舞台の条件や演じる側の変化に合わせた色んな工夫の積み重ねが必要で、定番のレパートリーを少しずつ変化させていくことで、一番お客様の心に届く表現を模索し続けていく努力が不可欠なんだよね。レパートリーを持っていることの強みと、そのレパートリーを磨いていくための努力の大切さ、みたいなことをちょっと思った舞台でした。