GAG第13回公演「My Home」~こういうカップリングができるのはGAGだけ!~

先週、9月7日(土)に、渋谷のl'atelierで、GAG(Galleria Actors Guild)の第13回公演を開催。長く続けてきた朗読シリーズ、「南の島のティオ」から、「帰りたくなかった二人」の朗読と、女房が歌うサミュエル・バーバーの歌曲「ノックスヴィル1915年の夏」の二本立て。会場をほぼ満席にしてくださったお客様と、濃密な時間を過ごすことができました。今日はその感想を。

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当日配布したパンフレットの表紙イラスト。

 

GAGは、女房と結婚する前に、二人芝居をやりたいね、と結成した二人きりの劇団で、音楽活動を舞台活動の中心にしている二人が、普通のお芝居や朗読などの別の舞台活動もやってみよう、と始めたユニット。全編の朗読上演を目指して続けている池澤夏樹さんの「南の島のティオ」の朗読シリーズは、今回で8話目になります。でも、今回お届けした、「帰りたくなかった二人」は、どうお客様にお話を伝えるか、かなり悩みました。とても地味な話で、特にドラマティックなことが起こるわけでもない。淡々と島の日常生活が描かれていく中で、人と土地の関係と繋がり、という重いテーマが、静かに語られるお話。実際、全編の中でも印象が薄くて、最初読んだ時には、そんなにお話に魅力を感じたわけじゃなかったんです。でも、2010年から、2年ほどの米国赴任を経て、改めて自分の生まれた土地、住む土地、それぞれの土地と人とのつながりを再認識した時、このお話のテーマが二人の中で、すとんと腹落ちした感覚がありました。

 

舞台に仕上げる前のお稽古は、演出家の女房と、朗読をする私が差し向いで練習します。ほとんど落語のお師匠とお弟子さんのような感じ。これを自宅でやるので家庭内の空気が大変居心地悪いものになるんですが、そこで随分詰めたのは、声の色を作らない、ということでした。朗読者としては、登場人物の台詞ごとに、そのキャラクターを演じようとしてしまうんですが、特に女性の台詞を喋る時、声を作りすぎてしまって、語られている中身が伝わらなくなってしまうんですね。

 

「『色んな声色でキャラクターを演じ分けられるSingさんってすごいですね』って言われるだけで終わっちゃうと、この話が伝えたいテーマが伝わらなくなっちゃうから」と女房にダメ出しされて、もっと平らかに、変な色をつけないように、声の色や語りのテンポ感、音程などを検証して、試して、修正して、を繰り返しました。でもそうやって声の色を変えずに、書かれている言葉に真っ直ぐ相対すると、逆に、一人一人の登場人物の言葉の底にあるキャラクターが見えてくる感覚があった。自分の声の表現力をアピールするのではない、この物語の中に生きている人たちの言いたいことを伝えるのが、朗読者のやるべきこと。

 

本番舞台では、長谷部和也さんのイラストや、女房の選曲したBGMなどの力もあって、面白かった、と言ってくださったお客様や「いい声ですねぇ」とほめてくださった方も多かったんですけど、やっぱり最後まで集中していられないお客様も結構いらっしゃって、自分の力不足も痛感しました。小さな会場なので目の前でお客様に居眠りされるのはかなり辛いものがあります。そんな中で、「お話の持っている哲学的なテーマがすんなり胸に伝わってきました」とおっしゃって下さったお客様の言葉があって、その言葉が本当に嬉しかったです。

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「南の島のティオ」のシリーズにずっと付き合ってくれているイラストレーターの長谷部和也さんの作品。素敵でしょ?

 

第二部、女房の歌った「ノックスヴィル1915年の夏」では、自分は女房の訳詞による字幕スライド制作と開演前の解説MCを担当しました。サミュエル・バーバーという作曲家は、きちんと旋律のあるクラシックの手法で曲を書いた最後の現代作曲家で、この曲も、ピアノの前奏が奏でる主題がしみじみと美しく、その美しい主題が形を様々に変化させながらずっと流れていきます。その中で語られるのは、アメリカ南部の中堅都市で、ある家族が過ごす、黄昏時の何気ない情景。でもその中で、少年の心によぎる人生や人間に対する深い思索が語られる。「帰りたくなかった二人」を上演しよう、という話をした時、「この曲とカップリングで上演したい」と女房が持ってきた曲。

若干手前味噌になりますが、冒頭の曲解説のMCを喋っている時から、女房が書いてくれた解説文の力もあってか、お客様の心をしっかりつかめた感覚がありました。そこに、田中知子さんのキラキラしたピアノの前奏が流れると、一つの緊密な空気がうまく生まれて、7歳の少年になり切った女房のドラマティックな歌唱をしっかり支える土台を作れたかな、と思います。変拍子も多く、曲の変化も目まぐるしい20分近い大曲は、歌う方も伴奏する方も、実は字幕スライド映写の方も相当緊張感を持って臨んだんですが、曲の終盤には客席のあちらこちらですすり泣きの音が聞こえ、小さな会場だけに余計に、お客様と演者が一体になって最後のクライマックスに向かっていった感じがしました。

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みっしりと密度の濃い時間を作り上げることができました。

 

GAGというユニットを初めてもう13年。ほそぼそと続けてきた活動ですが、今回やってみて、こんなカップリングの公演を制作できる団体なんてなかなかないんじゃないかな、と自画自賛してみたりする。12年間、ティオの世界を描き続けてくれている長谷部和也さん、七色の音色のピアニスト田中知子さん、舞台スタッフとして現場を支えてくれた娘と同級生の2人、チーム名「インスペクターズ」、そして会場のl'atelierのスタッフさん。本当にありがとうございました。そして何より、ご来場いただきましたお客様、本当にありがとうございました。南の島と、アメリカ南部、という全然違う土地の物語が、東京の会場で一つになり、皆様が、自分にとっての「My Home」って、どこなんだろう、という問いかけを共有することができた、そんな時間になったのなら本当に嬉しいです。