万年筆女子会コンサートVol.3「世界民謡めぐり〜歌は千年、筆は万年〜」

女房が参加しているこの「万年筆女子会コンサート」、前回までの2回は、万年筆に絡めて、「文豪シリーズ」「国産礼賛」、と続けてきたのですが、今回は、ネタが切れた、ということで、とにかく色んな民謡でいこう、と決めたそうです。そこで、世界で記録に残っている「民謡」を探してみると、大体1000年くらいの歴史を持っている、ということに気づいたうちの女房が、「歌は千年、筆は万年」というキャッチコピーを考え出した。まぁ無理くりなんですけど、意外となるほど感があっていいですよね。

本番コンサートは、舞台監督兼バーテンさんとして手伝わせてもらったんですけど、バーテンさんが結構楽しかった。9月末の公演に向けて、ヒゲをはやしていたせいもあって、私だと気づかなくて、ホール付のバーテンさんと思いこんじゃった人もいたみたいで、なんだか嬉しかったです。へへへ。

コンサートの内容について。このグループの魅力は、なんといってもその声の色合いの多彩さと、それがアンサンブルになった時のブレンドの見事さ。そしてそのブレンドをがっちり支える田中知子さんのピアノの豊かな音。様々な国の民謡の多様な彩りもあって、ものすごくカラフルな演奏会、という印象。

でも、繰り返しになるけど、やっぱりこのグループを稀有なものにしているのは、その見事なアンサンブルだと思います。個々のソロ曲の完成度ももちろんとても高くて、どの歌手も安定感と個性でものすごく輝いているのだけど、その煌きが和音になって絡み合った時にホール全体を満たす音の層の厚さに、ふんわりと身体全体が包み込まれてしまって、その多幸感ったら半端ない。

前にも書いたことがあるんですけど、ソロ歌手として活躍しているオペラ歌手が何人か集まってのジョイントコンサートで、ソロ曲はとっても素晴らしいんだけど、余興のようにして演奏されるアンサンブルがどうにもハモらなくて、なんだか残念な気持ちになることが結構あります。それに比べて、万年筆女子会のアンサンブルで、がっかりさせられたことは一度もない。ある意味失礼な言い方になるかもしれないけど、ソリストとして見たら、もっと声のパワーや色合いの豊かな歌い手はいるかもしれない。でも、これだけのレベルのオペラ歌手が揃って、これだけ完成度の高いアンサンブルを聞かせてくれるグループって、日本全国探してもなかなか見当たらないのじゃないかな、と思う。それぞれの選手は9秒台を出していなくても、4人になれば世界一になってしまう400メートルリレーみたいに。

今回、どうしてこんなにこのグループのアンサンブルががっつりハモるのかな、と聞いていて、そうか、と思ったのが、田辺いづみさんの声の厚み。一人だけのメゾソプラノの田辺さんの安定したピッチの柔らかな声に含まれる豊かな倍音の層が、個性豊かなソプラノ歌手の声たちをしっかり取り込んで、さらに豊饒な響きを生み出す。やっぱりアンサンブルの基礎は低音部なんだよな、と、ピッチが悪くて荒れたドラ声のベースのワタクシは大変反省しながら聞きました。

出会いというのは奇跡の積み重なりで、この5つの声が重なり合って生み出されたこの音の煌きも奇跡の産物。そしてきっと、そんな出会いのきっかけになった万年筆の発明も奇跡なら、歌われている歌が1000年受け継がれてきたのも奇跡。そんな奇跡がキラキラ輝いている瞬間を、会場のバーテンとして支えられた幸せをかみしめた一日でした。次のコンサートが待ち遠しいなぁ。