Crankybox十周年記念公演 第九回本公演「なんとかbox」~めざせ純烈~

最近、女房が関わっている舞台の中で、とにかく客席がすごく盛り上がるのが、シャンソン・フランセーズと、浅草オペラ。どちらにも共通しているのが、クラシックの歌い手が、クラシックナンバーだけではなくて、シャンソン昭和歌謡も交えた様々な歌曲を歌う舞台であること。そして両方に共通しているのが、そういったヴァラエティに富んだ歌曲たちを、破綻なく一つの舞台にまとめあげる構成力の素晴らしさ。聴衆は歌い手の歌唱技術だけではなくて、全く異なる楽曲が並んで演奏されることで生まれる相互作用や、巧みなMCや間奏曲によって結び付けられる関係性や、歌い手自身のキャラクターとの間の化学反応も楽しむことができる。さらにそこに、自分の耳になじんだ楽曲の歴史や記憶が生み出す多次元な意味が付け加わると、その舞台は聴衆一人一人にとって本当に特別な体験になる。

そういう多重的な意味空間を作り出すには、何より、楽曲の間の新たな関係性を生み出す構成のセンスと、それをやりきる歌い手の舞台センスが大事。ヘンに、「この楽曲とこの楽曲をこう並べたのにはこういう意図があって」みたいなアピールをだらだら並べて白けてしまったり、パフォーマンスに妙な力みやテレが加わった素人っぽい一瞬で、一気に空気が冷え込んでしまう舞台、なんてのは沢山ある。さて、前置きはこれくらい。今日は、17日にせんがわ劇場で開催された、Crankybox十周年記念公演「なんとかbox」の感想文だ。

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Crankyboxのマスコットキャラクター、くらんきうさぎ。ピアニストの桑原遥さんのオリジナルイラスト。まじカワイイ。

先日のシャンソン・フランセーズで女房が共演させていただいた植木稚花さんのキュートさと美声にやられたあと、女房から、「稚花ちゃんが参加しているCrankyboxは、本当にセンスがよくってとっても楽しいよ」と言われていて、一度伺ってみたかったんです。今回、週末の時間も合い、会場も、我が家の近所のせんがわ劇場、ということで、やっと伺うことができました。聴衆を上手に巻き込んでいく舞台の構成の妙と、4人のキャラの立った美女たちが本気で繰り出すギャグの数々。それが本当に心地よくて、笑いと音楽の癒し入浴剤がたっぷり入った適温のお湯にゆったり漬かった気分になりました。

前半、Crankyboxのboxにかけた、「ハコヤリゾート」という温泉旅館を舞台にした音楽コント(コント、と言い切ってしまうけど)の楽しいこと。なんか、クラシック音楽をネタにした品のいいスネークマンショウ、っていう感じ。揃いのオリジナル法被から、湯もみ板、座敷わらしまで、本気で作りこんでいる中で、演奏される音楽ががっつりプロ品質で、合間のコントのクオリティの高さも相まって、とにかく舞台に妥協がない。

そういう作り手の本気度、というか、自分たちはこういうものを作りたいんです、という妥協しない姿勢、というのが結構如実に見えるのって、裏方の頑張り度合いだったりするんです。今回の舞台で、一つ、すごいなぁ、と思ったのが、照明の作りこみだったんですね。プロの照明プランナーが作りこんだのか、劇場の照明スタッフがすごく頑張ってくれたのか、よく分からないんですが、温泉の湯気を表現したスモークから、温泉マークのネタ、後半、どの曲が演奏されるか分からない状態の中で、曲にあったホリゾントライトを出してきた臨機応変な対応、そしてミラーボールと、照明が本当にいい仕事をしていて、Crankyboxさんはせんがわ劇場にすごく愛されてるなぁ、と思った。劇場のスタッフさんって、本気の演者に優しいんですよね。

後半、お客様がレパートリーの中から希望曲を選んでステージをつくっていくジュークボックス(おお、このboxもcrankyboxにかけてあるのか。今気づいた!)式の舞台も、アドリブのMCが楽しくて全然飽きさせない。選曲のセンスの良さも本当に素敵。そして何より、歌い手の鈴木沙久良さんと植木稚花さんっていうのは、地声が綺麗なんです。だからMCの声を聴いていて心地よいし、特に後半、オンマイクでJPoPとか歌うと、本当に素敵に聞こえる。もちろん、お二人ともクラシック歌手なので、あまりオンマイクの歌唱に頼ってしまうのも善し悪しなんだろうな、とは思うんですけどね。

こういうセンスのいい本気の舞台をしっかり作り上げているから、10年間続いたんだと思うし、せんがわ劇場を満席にできるだけのリピーターも増えてくるんだと思うんです。私が座った席の後ろに座った男性二人が、「前回の舞台は見逃したんですがね、第x回からずっと見てるんです」「私は第y回は見逃したなぁ」なんて会話されていて、おお、沼にハマっている人がいる、と思う。お隣の席の上品なおばさま方が、開演前に、「あら、異邦人って、歌ってもらえるのかしら、いい曲よねぇ」なんて会話をされていたら、後半でリクエスト権を得て、嬉しそうに「異邦人」をリクエストされていました。それをまた、いいアレンジと美声で演奏されるから、おばさま方は本当に嬉しかったと思います。そういう特別な時間をくれる舞台って、そんなに沢山あるものじゃない。

コントも歌も本気でしっかり作って、お客様の求めるものをしっかり届ける、そういう姿勢を貫いていけば、次の十年もサポーターは増えていくと思います。Crankyboxの皆さん、本当に癒されました。ありがとうございました。稚花さん、お疲れさまでした。銭湯アイドルの純烈も紅白に出るんだから、Crankyboxも、行けるぜ紅白。