AIが本格導入された世界を想像してみる。

ある報道番組で、「AI(人工知能)が進化していくと、単純作業の多い現場のブルーカラー業務がどんどん自動化されるかも」みたいな論調があって、ふざけるな、と思った。そういう記事を書いている人こそ現場仕事を知らない頭でっかちのホワイトカラーで、実際には、現場仕事こそ、予想不能な様々な状況に臨機応変に対応しなければならない、極めて自動化の困難な仕事だと思う。机の上で文章チェックしたり、エクセルでデータ加工して見栄えのいいプレゼン資料作るのを仕事にしているホワイトカラーの方が、よほどAIへの互換性が高い。記者の頭の中には、整然とした自動車工場の中で無数の産業用ロボットが規則正しく動いている映像が「現場」として映っているのかもしれないけど、あんなの野菜工場で野菜を作っているようなもので、晴れの日もあれば曇り、雨、雪、風、台風、動物や害虫や雑草の襲来、ありとあらゆる想定外が襲ってくる自然相手の作業をしているのが、本当の「現場」。その現場仕事を全てAIで自動化する、なんてことは、相当高次元の技術革新でもないかぎり不可能だと思う。

・・・というようなことをFACEBOOKに書いたら、高校の同級生が、「今の中間管理職がやっているような、情報を基にした判断をする仕事って、大部分がAIで置き換えられちゃうんだよね」とレスしてくる。「逆に、重要な情報を取捨選択して収集する部分って、AIにはなかなか難しい。だから、生の情報が生まれてくる現場の仕事は、人間がやらないといけない」と。なるほどなぁ、と思う。現場に無限にある情報の中から、何を重要として何を不要とするか。切り捨てる判断力。拾い上げる観察力。

自分が携わっている、通信サービスの運用、という仕事でも日々実感しますが、現場の作業は、まさに人間の手と智恵による瞬時の判断とデータ化できない工夫の宝庫です。特に、私が関わっている、海底ケーブル修理、といった洋上での仕事は、今何が海中で起こっているのかを直接自分の眼で確認することができない。得られた限られた情報や前提条件から、智恵と想像力で、最適な次の行動を判断していく。その間にも、自然は待ってくれない。海象は刻一刻変化する。一瞬一瞬に臨機応変に判断していかないと、仕事は前に進まない。

象徴的な例ですけど、海底ケーブルの探線という作業(深海に敷設されたケーブルを、巨大なフックで引っ掛けて引き上げる作業)では、いまだにアナログの計器が使われています。デジタル化された数値では読み取れないような微妙な張力の変化を感知するには、アナログの計器でないとダメなのだそうです。現場にはそういう数値化できない情報や人間の想像力を駆使しなければいけない局面がいっぱいある。

要するに、人間や自然のように、数値化するのが非常に難しいものを相手にする仕事っていうのは、なかなかAIでは代替できない、ということなんじゃないかな。そう考えると、さて、AIが本格的に活躍するようになった世界ってのは、いったいどうなっていくんでしょう。どんな仕事が人の手に残り、どんな仕事がAIに置換されるんでしょう。得られた情報を処理する、一定の条件の組み合わせから導き出される将来予測をもとに判断を下す、リスクを数値化して評価する、といった仕事は、AIの得意分野ですから、金融業界の仕事の大部分はAIに置換されちゃうかもしれませんよね。行政サービスの大部分もAIに置換できそう。農業・漁業・林業といった、自然を相手にする第一次産業は人間がやり続ける部分が大きいだろうし、建設業の現場仕事とかも、人間じゃないと中々難しい部分はたくさんありそう。接客業とか、芸術家なんかも人の領分かな。

と考えていくと、AIに対して「俺はこうしたい」という意思を表示する仕事、つまり企業の所有者の仕事と、現場で自然や人間相手に働く仕事、つまり3Kとかブルーカラーとか言われている仕事が、人間の担当する仕事として残る領域になっちゃうのか?その間の中間部分の仕事はほとんどがAIに取って代わられてしまうんだろうか。それって究極の格差社会、過去の貴族社会の復活ってこと?と、一瞬絶望してみたり。でも、現場仕事の担い手が企業を所有するとか、うまい富の再配分の仕組みができれば、いいバランスが生まれる可能性もあるよな〜と思ってみたり。

いずれにせよ、効率化を至上の価値とする「営利企業」というプレーヤーが社会の仕組みの大部分を決めている現代においては、AIの方が効率的、となれば、容赦なくヒトは首を切られ、その仕事はAIに移っていく。それを前提に、自分の未来の立ち位置を考えないといけないのが現代人の宿命。オレはAIには真似のできない価値を本当に生み出しているのか、と問い続けないと生き残れない。いずれにせよ、「現場の仕事には頭はいらない」「現場仕事は3K」「現場仕事は薄給で当たり前」「現場の仕事からAIに置き換わっていくのは必然」なんていう、現場仕事を馬鹿にするステレオタイプ的な思考パターンは、いい加減捨てた方がいい。逆に中間層に無駄な給料払うよりは、ホワイトカラーの首を切ってAI化して、特殊技能を持ったブルーカラーの現場技術者に高給払った方が、企業価値は上がると思うんだけどね。介護サービスとか接客業とか、サービス産業でも状況は同じだと思う。何においても現場が一番大事。