合唱団なのになんで踊らないといけないの、と言われるとね〜

色んな人と音楽をやっていると、時々、自分とは全然違う音楽への接し方に出会ったり、表現ということに対する考え方が全然違う人に出会ったりして、面食らうことがあります。つい先日も、合唱をやっているある人から、「我々は合唱団であってパフォーマンス集団じゃないんだから、振り付け付きで歌うべきじゃないと思っています」と言われて、かなり面食らう。合唱って、パフォーマンスじゃないのか。振り付け付きで歌ったら合唱じゃないのか。ううむむむ。

でも実際、合唱団の演奏会の演出をやると、必ずこういう反応が一部の方から出ます。「合唱団なのになんで踊らないといけないの」「合唱団なのになんで演技しないといけないの」・・・そういう方たちにも楽しんでいただけるように、と一生懸命演出を考えても、結局最後まで理解できない、越えられないカベが立ちはだかってしまって、「演出付きステージはもういいです」と言われたこともあります。こちらの力不足ももちろんあるんですが、参加した人全員が「面白かった!」と声をそろえてくれることって、中々難しい。

そういう「カベ」は、芸術的な観点とは少し違う部分から生じていることもあります。同じ舞台系サークルでも、「合唱部」と、「ダンス部」「演劇部」の間に壁があるのと同じ文脈。人前で飛んだり跳ねたり演技したりするのは恥ずかしいけど、大勢で声を出すなら恥ずかしくない、というのと同じ気持ち。どこかで、「合唱」というのを、他の舞台パフォーマンスと異なるカテゴリーに分類しているんだね。「恥ずかしい」活動と「恥ずかしくない」活動、というか。以前、オペラ舞台で共演してくれた女性が、舞台を見に来た旦那さまから、「音楽ならいいけど、これはお芝居だから、もう参加しちゃだめ」と怒られた、なんてことがあったなぁ。

もっとレベルの低い話になりますが、音楽をしたい、表現をしたい、というのと違う理由で、合唱団や音楽集団に参加している人も間違いなくいますよね。友達が入っているから、とか、仲間が欲しいから、とか。音楽サークルの練習なのに、音楽の練習は全然しないで、集まってただダベって時間が過ぎて、何しに集まってるのか分からん、なんてこともよくある話。ママさんコーラスの練習風景なんか聞いていると、練習中は蚊の鳴くような声で、いるのかいないのか分からないような人が、練習終了後の昼食会になった途端に、先頭に立って大声でグループを仕切っている、なんてのもよく聞く話です。またそういう人に限って、選曲会議なんかで妙に声が大きくて全体の意見を左右したり。「私みたいにクラシック音楽に詳しくない人でも楽しめるようにJPOPとかいっぱい歌いましょう(でも踊りはしんどいからナシね)」とかそういう人に言われると、「じゃあまず詳しくなってから(踊れるようになってから)言えよ」なんて思っちゃう。

そういう、音楽をすることを目的としていない人は論外としても、「自分は音楽を真剣にやりたいのに、演出を付けるなんぞけしからん」と正面からぶつかってしまう人もいます。そういう人はその人なりにしっかりと真剣に音楽に向き合っているので、中々お互いの妥協点が見つからない。そういう人たちと、それぞれが思っているパフォーマンスについて議論していくと、「合唱とはなにか」「歌とはなにか」「音楽とはなにか」みたいなかなり重たい命題にまでさかのぼってしまうこともある。

オペラやオペレッタの世界に慣れきっている私みたいな人種は、音楽・歌・演技・ダンス・照明など、舞台上で展開する全てのものをひっくるめたパフォーマンス全体が、広義の「音楽」なのであって、耳の鼓膜から脳が認識できる空気の振動を利用した時間芸術、という狭義の「音楽」だけを取り出して理解したり、表現することができない。特に人間の身体を使って表現する「歌」「合唱」というものについてはそういう意識が強い。

でも、そういう意識が大事、とか、そういう意識を持たない人はヘン、と一方的に主張するのも実は危険なこと。音楽表現は総合パフォーマンスだ、というのは、私のように、純粋な「音楽」に対する理解力や感性が低い人間が陥りがちな罠だったりします。ちょっと見た目に難があるけど歌唱技術は素晴らしいオペラ歌手より、そこそこ歌えて見目麗しいオペラ歌手に人気が集まるのと根っこは同じで、音楽が分からない人間が自分への言い訳として、「合唱だって総合パフォーマンスであるべきだ」と言っているに過ぎない場合だって多々ある。私自身のアプローチも、根っこは自分の音楽力のなさから来ていると思います。音楽そのものから豊饒な意味をつかみとることができる人にとってみれば、舞台上のダンスだの照明なんだのは聴覚を邪魔するノイズに過ぎない。

でもやっぱり「合唱なんだから振り付けなしであるべき」とか、「総合表現なんだから見た目を重要視するべき」とか、どっちかに偏った話にしない方がいいと思うんですね。オペラは演技がついているから音楽じゃない、とは言えないし、合唱はひたすら、出てくる音の良しあしだけが勝負で、舞台上の見た目なんてどうでもいい、というのも違う気がする。音楽って、やっぱり聴覚だけで楽しむものじゃなくて、その場の空気とか雰囲気とか、出演者の心持ちとか、聞き手のその日の健康状態とか、色んな要素が総合的に影響してくるものだと思うんです。純粋な音だけに集中するべき音楽だからこそ、合唱団員の無神経な立居振舞がその集中力を殺ぐ場合だってあるし、舞台演出によって聴覚以外の五感が刺激され、逆に音楽への集中度や興奮度が高まることだってある。僕らがやろうとしていることは、客席に対して空気の振動を伝えることじゃなくて、客席のお客様を感動させること。音楽を活かしながら、他の五感にも十分に訴える効果的な演出で、お客様の感動を増すことができたら。音楽関係の舞台で演出をやっている人はみんな、そういう課題に直面して、毎日うんうんうなっているんだと思います。うんうん。