裾野は広いよねぇ。

最近、地元での色んな活動に首を突っ込み始めている、という話を、先日の日記に書きました。この週末も、女房ともども、地元を中心に活動していて、これがなかなか面白かった。付き合わされた娘は若干辟易しておりましたが。

土曜日の夜は、府中の合唱団「麗鳴」の練習にお邪魔。前回同様、団員さんの結婚式で歌う歌を練習。パパは楽しく歌っていたのだけど、人見知りの娘は居心地悪そうに会場の隅で分数の宿題をやっていました。宿題に飽きたら、パパの持ってきたミニPCで、クラスの「お楽しみ会」の案内状を作成。案内状は作るけど、クラスに配ったりしないんだって。ただワープロで遊ぶのが楽しい、と言いながら、座席表を図で挿入したり、文章をローマ字で打ち込んだりしている。中館先生が、「僕なんか30過ぎてやっとワープロ使い出した世代なのにねぇ」と感心されていました。最近の子供は本当になんでもあっという間に習得しちゃうからねぇ。

中館先生が、「風紋」を練習しながら、石井歓先生が亡くなられた、というお話をされていて、「辻先生含め、大御所と言われる方が亡くなっていきますねぇ」とおっしゃった後、「一方で、こういう新しい作曲家も出てきてますよね」と、北川昇さんの「ここから始まる」を練習する。北川昇さんというのは、最近新譜がわさわさ出ている作曲家らしいんだけど、確かに「ここから始まる」というのも、とてもきれいなよい曲。それにしても、合唱曲ってのは、ひょっとしたらオペラのソロ曲歌うより疲れるかも、なんて思う。オペラのソロ曲とかは、歌い手の生理をある程度考慮して書いてあることが多いし、一人で歌うから、全部自分のペースで作ることができるけど、合唱っていうのはそういうわけにはいかない。人間というよりは機械のように、きちんと鳴らし続けないといけない部分もあるし、アンサンブルを考えると、生理的にはとてもキツイ所でしっかり鳴らさないといけなかったりする。特に、「ここから始まる」という曲は非常に繊細かつ平易に書かれた曲なので、手を抜くとすぐに響きがにごる。終わったころには膝がガクガク。やだね中年男は体力がなくて。

日曜日のお昼、東府中にある音楽サロン「サングレース」という場所で開催された「サンデー・ワークショップ」というサロンコンサートにゲスト参加。ピアノの先生のお弟子さんたちの発表会を中心に、それだけだと面白くない、ということで、ネットで参加者を募って色んな方々が色んな楽器を持ち寄っての演奏。ギターあり、ピアノあり、バイオリンあり、ビオラあり、フルートあり、そして我々のような歌あり、と、バラエティに富んだ演奏会。年齢層も、下は高校生のお嬢さんから、上は「中学生の時に軍需工場で終戦を迎えました」というおばあさままで、実に幅広い方々が集いました。

正直申し上げると、発表会という形で人前で演奏されるには、ちょっと・・・?、というような演奏もないわけじゃなかったんですけど、時々はっとするような見事な音が聞こえたり、嬉しい出会いがあったりする。江東区の方でビオラを教えている、というバイオリニストの方とお知り合いになったり(今度ガレリア座で是非弾いてください!とお願いしたら、「ピットの中ではビオラを弾くんですよ」とのことで、ビオラ不足のガレリア座団員としては狂喜乱舞。スケジュールが合えばいいなぁ)、伴奏してくださったピアニストのMさんと女房がマイミクになったり・・・そして何よりも、初めてお邪魔した音楽サロン「サングレース」という場所が、なかなか素敵でした。東府中駅からすぐの場所にあって、グランドピアノが二台並んでいて、一台はスタンウェイ。二台ピアノの連弾もできるし、控え室もちゃんとあるので、今回のような小さな発表会もできます。窓から見える街の眺望も素晴らしい。またこの場所で、何かしら楽しい企画ができないかなぁ、と心わくわく。

女房と私は、オハコにしているオッフェンバック「天国と地獄」の「ハエの二重唱」をやったんですけど、わりと真面目に音楽に取り組んでいる方々が集まっていたみたいで、みんな面食らっちゃって呆然として聞いていた、という感じでした。変な演目やっちゃってすみません。まぁこういう音楽もある、ということで許してくださいな。

実を言えば一番感動したのは、終戦の時に中学生だった、というおばあさまが細い声で歌った「オンブラマイフ」だったりした。60歳を過ぎてから音楽を習い始めた、というこのおばあさまは、西洋音楽が禁じられていた戦争の時代が終わって、ラジオから流れてきたクラシックに心底魅了されて、その思いが忘れられずに、還暦を過ぎて音楽を習い始めたのだそうな。こういう方々の弾くピアノとか歌っていうのは、技術的な問題を全部超越して、人の心に響くよね。濃密な思いの詰まった演奏。

色んな意味で、音楽の裾野の広さを感じた演奏会でした。親の道楽に付き合わされた娘は結構むくれていたのですが、東府中の駅前の美味しいケーキ屋さんでケーキを食べてご機嫌に。そのまま夜はガレリア座の練習にお邪魔して、1月公演の「ウィーン気質」の舞台設定関係の打ち合わせ。今回は舞台監督として参加させてもらっているので、そろそろ裏方として働き始めないといけません。オペレッタも音楽。オペラも音楽。小さなサロンでのたどたどしい、でも気持ちのこもったピアノの音の一つ一つも音楽。色んな音楽を通じて、人の輪が広がっていけばいいね。