「ガラスの仮面」大人読み

花とゆめ」が30周年、ということで、Yahooあたりが特集を組んでいるのを見て、うちの女房がむらむらとネットで衝動買い。「ガラスの仮面」文庫版全23巻、大人買いをしてしまいました。ある日帰宅してみれば、玄関先に段ボールに詰まった23冊の「ガラスの仮面」が置いてあったと思いねぇ。かなりの衝撃である。

一瞬の衝撃(=呆れ)が通り過ぎてしまうと、もともと漫画好きなものだから、むらむらと読みたい気が盛り上がってくる。というわけで、ここ2週間ほどかけて、23冊の「ガラスの仮面」一気読みしてしまいました。女房が大久保混声合唱団の練習で疲れて深夜に帰宅してみれば、暗いリビングで「ガラスの仮面」をむさぼり読んでいる45歳男がいると思いねぇ。これまたかなりの衝撃である。

私は実は「ガラスの仮面」の洗礼を一切受けていませんでした。例の安達祐美のドラマが世間で盛り上がっている時に、ちらりちらりと画面が目に入ってきて、「花とゆめ」の表紙で見た月影先生野際陽子さんのコピーぶりに驚愕した、くらいの印象しかない。なので、今回が私にとって「ガラスの仮面」初体験だったんですけど、いや、面白かったですよ。すげぇ話だなぁ。

大映ドラマを思わせる波乱万丈の物語、極めて類型的なキャラクター設定、かなり超常現象的な主人公の「天才」ぶり、「巨人の星」も真っ青のハード・トレーニングぶり、と、突っ込みどころは満載なんだけど、それでも面白い。北島マヤ姫川亜弓の成長ぶりも面白いのだけど、私は、劇中劇として演じられる美内すずえさんオリジナルの物語が結構面白かった。「海賊ビアンカ」とか、「通り雨」なんて、一人芝居で舞台で見てみたい、演出してみたい、と思わせるし、「二人の王女」なんかも実にダイナミックな話。

最近になって描かれた「紅天女」の物語は、作者自身の人生観の深さを示していて、それまでの劇中劇とは違う、30年間の連載の重みを感じるような重厚な物語。よくあるじゃないですか、物語の中で、登場人物が命をかけようとする作品が、ふたを開けてみたら大したことない・・・なんていう話。それに比べて、ベールを脱いだ「紅天女」は、まさに数多くの人が人生を狂わせるにふさわしい素晴らしい物語。

つまりは、美内すずえという作家は、本当に稀代のストーリーテラーなんだね。「ガラスの仮面」本編の持つ物語の力はもちろんのこと、劇中劇の持つ物語力も、決して本編に負けない輝きを放っている。個人的には、そこが最大の魅力でした。

ちなみにうちの夫婦はそろって、姫川亜弓派です。なんとなく生まれ持った才能で本質を捉える、なんていうアプローチは、子供のうちは通用するかもしれんが、芸ってのはもっともっと職人技的に技術を磨かないとだめなもんだぞ。誰に説教しているのか分からんぞ。