「鉄コン筋クリート」〜やっぱ殺し合いかぁ〜

先日、深夜にムービープラスHDでやっていた「鉄コン筋クリート」を思わず見てしまう。ジャパニメーションもここまで来たんだなぁ、と思いつつ、やっぱ殺し合いなんだなぁ、とちょっと悲しい。

オタク的観点で言えば、スタッフの中に森本晃司さんの名前を見つけたのがちょっと嬉しかった。マッドハウス、というアニメ制作スタジオの中核メンバーだった人で、数々の出崎統作品で見たお名前。「AKIRA」とかにも参加していたはずで、「鉄コン筋クリート」にも、大友克洋さんの「スチームボーイ」の関係でつながっていたらしいから、ジャパニメーションの中にそういう流れがあるんだね。押井守大友克洋作品を中心として、CGを駆使した濃密な大人向けアニメーションを作成していく流れ。対極、とは言わないけど、別の流れとして、宮崎駿のジプリ作品があり、他に、ポケモンプリキュアのような「商業アニメ」とでもいえる流れがある。こういう分類学みたいなのって、誰かがどこかでやってるんだろうなぁ。

松本大洋、という漫画家は、漫画の持っている「デフォルメ」という武器をアートにまで高めた人、という認識があるんだけど、そんなに詳細に論じられるほど作品を読んでいない。なぜか、映画化作品は、「ピンポン」と「鉄コン筋クリート」の両方を見ている。それだけ、「松本大洋の原作なら絶対面白いだろう」と思わせるものがあるし、不思議なんだけど、「松本大洋の原作を映画化するヤツなら、中途半端なものは絶対作らないだろう」という確信がある気がする。それだけ、読者をのめりこませる魅力を持った作家だし、そうやって原作にのめりこんだ人が作る映画だから、絶対ハズレはないだろう、という感覚。そして実際、「ピンポン」にせよ、「鉄コン筋クリート」にせよ、ハズレのない秀作でした。

鉄コン筋クリート」については、やはり、「宝町」という世界の濃密な描写と、そこを疾駆するシロとクロのスピード感、という点に尽きる気はします。「宝町」という架空世界を巡る神話的物語の深さ。暴力の行き着く先にあるもの、というテーマで言えば、救済のある北野武映画、とでもいうような味わいがあります。

個人的には、その一点が割り切れない気分で、やっぱり暴力なのかなぁ、というのが一番の感想。クロは恐ろしく殺傷能力の高い子供で、ヤクザをコテンパンにのしてしまうパワーを持っている。その暴力の使い方も不条理なものではなくて、一定の筋が通っている。そういう意味での爽快感はあるし、後半のクロの闘いはむしろ自己防衛的なものだから、観客がシロやクロへの感情移入を失うほどではない。

と言いながら、描かれるのは、ヤクザを含めた町の秩序を破壊する勢力と、街の守護神のようなシロとクロという子供の殺し合い、という、極めて殺伐とした世界なんだよね。かっこいいんだけどさ。北野武映画がどうしても好きになれないのと同じで、この世界観にのめりこむ所まではいかない。ジャパニメーションの一つの流れが、どこまでも殺伐とした暴力描写に行き着いている、というのが、なんとなく割り切れない思いとして残る。

映画のラストシーンに割り切れなさを感じている人も多いけれど、暴力の行きつく先として「イタチ」という究極の姿を垣間見たクロが、宝町という自分のテリトリーを捨てることを決意し、パラダイスに逃亡する、というのは、一つの解決としてはアリかな、とは思います。北野武映画は好きになれない、と言いながら、やっぱり北野武映画がすごいなぁ、と思うのは、こういう解決をあえて選ぼうとしない所かもしれない。暴力の行き着く先を、そういう暴力の全てを自分の中に抱え込んだ自滅、として常に描き続ける、というのは、決して逃げない、人間はそう簡単に逃げられるものじゃない、という諦観に基づいた、相当強靭な精神にしか為しえないことのようにも思います。

シロ役の蒼井優が秀逸。蛇役で本木雅弘さんが出ているので笑ってしまった。楽しそうに演じている感じが伝わってきていい。声優さんの一人ひとりにまで、作り手のこだわりが込められた佳作でした。