機内映画鑑賞〜「スィングガールズ」「ハンコック」〜

出張に行く時の楽しみの一つが、往復の飛行機の中で見る映画。最近は「シートTV」という形で、好みのプログラムを選択できて、かつ巻き戻したり一時停止したり、なんてことも自在。ほんとに便利な世の中だよ。これじゃほんとに年寄りだよ。

てなわけで、今回の北京出張でも、往復で2本の映画を見ました。前から見たかった「スィングガールズ」と、そんなに見たかったわけじゃないけどプログラム紹介文の中に気になる名前を見つけたので思わず見ちゃった「ハンコック」。今日はかなりオタク度の高い話をしますぞ、と前置き。

「スィングガールズ」は、上野樹里貫地谷しほりさんがお目当てで見たのだけど、楽しい映画だねぇ。ストーリー的には無茶苦茶強引なんだけど、ラストのビッグバンド演奏の爽快感は素晴らしい。この爽快感はどこから来るのか、といえば、もちろん、出演者が必死に練習した楽器演奏の見事さもある。でも、やっぱり大きいのは台本の力で、全てのキャラクターが最後の演奏シーンに向けて見事に収斂していく快感。まさにネズミ一匹に至るまで、全ての登場人物が、あるべきところにきっちりと収まっていくのがすごい。

「スィングガールズ」出身の女優さんたちが現在もしっかり活躍されている、というのは、この映画で徹底的に楽器演奏を仕込まれた、という経験が影響しているんじゃないかな、と漠然と思っています。一つのパフォーマンスをきちんと完成させること。その過程で手を抜かないこと。「ちりとてちん」の貫地谷さんの三味線や落語のパフォーマンス。上野さんの「のだめカンタービレ」での楽器演奏シーンへのこだわり。一つの表現にきっちりこだわることをこの映画で身につけたのが、この人たちの強みなんじゃないかな。そんな気がします。

「ハンコック」を思わず見てしまったのは、機内の映画紹介パンフレットの中に、懐かしい名前を見てしまったから。視覚効果、ジョン・ダイクストラ。ここでオタク心がむくむくと湧き上がって思わず見てしまった。いわゆる普通の特撮ヒーローものだと思ったら、突然途中から世界観が拡大して、感動的な恋愛映画になってしまった。こういう所がすげぇダイクストラっぽい、と思ってしまうのがオタク。

ジョン・ダイクストラ、という名前を初めて認識したのが、「スペース・バンパイア」。B級ホラー映画を撮らせたら世界一というトビー・フーバー監督の超B級映画なんだけど、これの特撮シーンが無茶苦茶美しい。この映画のパンフレットに掲載されていたB級映画論、というのがすごく面白くて、そこで紹介されていたのが、ジョン・ダイクストラ、という、名前からして一度聞いたら忘れられそうにない特撮マン。

私の年代の映画ファンで、いわゆる「特撮映画」の洗礼を受けなかった人はいないと思うのだけど、ジョン・ダイクストラというのは、あの「スター・ウォーズ」第一作の特撮監督で、Dykstraflexというモーション・カメラのシステムを開発した、まさに特撮界の大御所だった人。にも関わらず、「スター・ウォーズ」第一作の特撮シーンの完成遅延でジョージ・ルーカスと衝突、以降、ダグラス・トランブル(「未知との遭遇」「ブレードランナー」)やリチャード・エドランド(「帝国の逆襲」「ゴースト・バスターズ」)といった大御所が立派な特撮映画を撮り続けている一方で、「スペース・バンパイア」みたいなB級映画ばっかり撮ってかなり不遇を囲っていた特撮マン、という印象があった。

そのダイクストラが視覚効果でエントリーされているんだ、と思い、Wikipediaを見たら、なんとダイクストラ、「スパイダーマン2」でアカデミー賞撮ってたんだね。でも、そもそも「スパイダーマン」の監督のサム・ライミという人自体、「死霊のはらわた」というゲテモノB級映画でその悪趣味を思う存分発揮していた人だから、ダクストラとは波長が合ったのかもしれないけど。「ハンコック」もそう思ってみれば、アンチヒーローの描き方自体「スパイダーマン」に共通していなくもない。

ちょっと真面目な話に戻ると、「スパイダーマン」という映画が話題になった頃、「スパイダーマン」は世界からどうしても評価してもらえない米国そのものだ、という論評が話題になりました。ヒーローなのに、世間にどうしても評価してもらえない。「ハンコック」はそのあたりがもっと強烈に出ていて、ハンコックの苦悩に、正義を振りかざしながら受け入れられない「KY」大国米国の苦悩を重ねてしまったりする。

といいながら、CG映像の美しさに、やっぱりダイクストラってタダモノじゃないなぁ、と思いながら見てました。「スペース・バイパイア」なんかと違って、どこかドキュメンタリータッチの粗い映像で仕上がっている本編に、すごくマッチしたザラツキ感のあるスペクタクル映像がたまらなくよい。