「ロード・オブ・ザ・リング」〜脇役がいいじゃん〜

とにかく広くて、とにかく一杯いる・・・というのがこの映画の一番の印象なんですけどね。やっと見終わりました、「ロード・オブ・ザ・リング」3部作。やたらと広い原野や、どこまでも続く山や、恐ろしく巨大な城だの恐ろしく高い塔だのが一杯出てきて、そこをやたらと沢山の兵隊やら怪物たちが埋め尽くす、というパターンが何度も何度も出てくる。これでもかこれでもか、という感じの物量作戦。これだけの物量作戦で圧倒しないといけないくらいに、原作のスケールが大きい、というのは分かるんだけどさ。この物量作戦、どこかしらワーグナーのねちっこさを思わせるものがあるのは、原作が原作だから仕方ないんですかね。どうでもいいけど、映画になると「ロード・オブ・ザ・リング」で、原作は「指輪物語」という使い分けを厳密に守らないと、やっぱ色んな方面から突っ込みを受けるのだろうか。

指輪の力に翻弄され、深く傷つくフロドの姿、というのは、核という究極の力を手に入れて、その力を持て余している現在の人類の姿に重なる。大変恥ずかしいことにトールキンの原作を読んでいないので、そういうテーマの解釈が原作に沿っているのかはなんともいえない所。なので、テーマに関わる議論はここではあまり触れずに、まずはかなりミーハー気味に、気に入ったキャラクターのことを書こうと思います。以下、映画見てない人には何も分からない記述が続きますが、すみません。

とにかく登場人物が無茶苦茶多い中で、一人一人のキャラクターがきちんと立っているのがすごいなぁ、と思った。キャラクターがしっかり立っているから、ただのCG映画になってない。多分、アラゴルンが好き、とか、レゴラスがカッコイイ、とか、ギムリが楽しい、とか、色んな方が色んなことをおっしゃるんでしょうねぇ。確かにレゴラスは無茶苦茶カッコイイよなぁ。あのばかでっかい象を一人で殲滅するシーンなんか、あまりにかっこよすぎて笑ってしまう。

主役のフロドがなんとも陰気で(イライジャ・ウッドさんのファンの方、すみません)、頑張ってるんだけど、結構軟弱に見えちゃう。結果として、私は従者のサムくんが偉いと思ったなぁ。フロドよりよっぽど主役っぽいじゃん。クモ婆との戦いなんか、すっかりヒーローだよ。

あとは何と言っても、セオデン王とエオウィン姫の親子が好きだったなぁ。エオウィン姫がナズグルの首をたたっ切って、メリーと共にアングマール王を葬るところなんか、実に爽快。願わくはもう少し美人の女優さんだったらよかったんだが(ミランダ・オットーさんのファンの方、すみません・・・なんか、敵を増やしている気がするな)。こういう戦うヒロインに惹かれるというのは、美少女戦士に惹かれるオタク系人種の特性なのだそうだ。悪かったな。どうせオレはオタクだよ。自分で突っ込んで自分で開き直るなよ。

セオデン王は人間臭くて、結構間違いも沢山しでかすんだけど、本当は無茶苦茶勇敢な武人で、死に様も見事だった。蛇の舌の奸計にかかってしまった自分の弱さに最後まで自責の念を持ち続ける人間味。バーナード・ヒルさんの演技が圧巻。それに比べてデネゾール候の悲惨なことよ。あんた何しに出てきたの?って感じだよねぇ。しかし、エオウィン姫のアラゴルンへの思いってのはどうしてくれるのだ?そもそもアルウェンさんが何をしたっていうんだ?エオウィン姫の方がけなげそうでいいじゃないか。やっぱり美人じゃないからか?確かにアルウェンさんの方が無茶美人だ。アラゴルンは面食いだったっていうオチか?・・・一応、エオウィンさんはファラミアさんと結婚するらしくて、映画でもなんとなくそういう伏線をきちんと見せてくれていたけどね。

・・・と、ばかばかしいミーハー話を書き連ねた後で、ちょっとシビアな話を。この映画がこのスケールできちんと完成した、ということ自体、一つの奇跡かもしれない、と思います。圧倒的なスケールの大きさ、3部作を同時に製作する、という未曾有の製作スタイル(おかげで最初の製作会社は資金繰りに詰まって手を引いたんだそうな)。一種、アベル・ガンスの「ナポレオン」を思わせるような、映画史に残る作品であることに間違いはない。

そうなんだけどね、個人的にはどこかひっかかりが残る。一番ひっかかるのは、戦いの相手であるサウロンの軍隊、というのが、恐ろしく醜悪なオークやモンスターとして描かれていること。ここにも、ちょっと前のこの日記で書いた、善と悪の二元論がきれいに現れている。「スタ・ウォーズ」のシリーズで、敵方が常に、白いかぶとをかぶった非人間的な兵士か、アンドロイド兵士として描かれるのと同じですね。敵=悪は人間じゃないんです。

でも、本当の戦争は、人間と人間の間の殺し合いなんです。人間同士の戦いに、善悪なんかない。感情的な好悪から、宗教的な価値観の違い、経済的な利権まで、原因は色々あるだろうけど、善悪=大義のある戦いなんかない。だからコトはそんなに単純じゃないんだよねぇ。

もちろん、「ロード・オブ・ザ・リング」には、圧倒的な力の持つ魅力に惑わされる人間の弱さや、人を信頼しきれない人間同士の悲劇がきちんと描きこまれていて、単純な勧善懲悪の映画にはなっていない。それはそうなんだけど、カッコイイ兄ちゃんたちが、薄汚いオークたちをバッタバッタとなぎ倒しているのをイヤというほど見せ付けられると、なんだかちょっとオークさんたちに同情しそうになってしまう。もうちょっとサウロンさんがしっかりしてれば、君たちの時代になったのにねぇ・・・惜しかったねぇ・・・次は頑張ろうねぇ・・・