「小公爵」〜美しく、楽しく・・・でも大変!〜

先週後半くらいから、連日のように「小公爵」の練習が入り始めて、どんどん全体像が見えてきました。ほんとに軽やかでばかばかしく楽しく、その癖、時に、うっとりするほど美しい、オッフェンバックオペレッタのような、まさにフレンチ・オペレッタの佳作。

今回のこの公演、この日記にも時々登場するS弁護士が、ご家族の関係でフランスに旅行した際、ふと立ち寄った古本屋で偶然見つけたピアノ譜を、支配人のY氏に手渡したのが発端だったそうです。S弁護士の言葉を借りれば、「いまにも壊れそうなピアノ譜」だったそうですが、これがこんなに美しくも楽しい舞台作品に仕上がっていく、というのが、音楽の魔法のなせる業なんでしょうか。

こんな素敵な作品が埋もれてしまった理由ってなんだろうね、と女房と話をしていて、「まぁ、話の馬鹿馬鹿しさもあるけれど、キャストのバランスも少し悪いね」という話になる。実際、主役のカップル2人には、プリマのソロ曲がなくて、ほとんどがプリモの曲。ルコックがこの作品を書いた時の、注文元の劇場の事情が反映しているんでしょうか。ものすごく人気のあるテノール歌手がいたとか・・・今回の公演でも、タイトルロールのラウルを演じる猪村さんは、毎回の練習が体力勝負、みたいな感じで、「ペース配分が大変!」とおっしゃりながら、ノーブルで若々しく、知的でコミカルなラウルのヴァラエティ溢れる曲を、見事に歌い分け、演じ分けてらっしゃいます。もちろん、歌は少ないけれど、プリマの赤池さんもキュートな魅力を振りまいてらっしゃいますよ!

ラウルは18歳、という設定なので、メゾソプラノのズボン役でキャスティングすることも可能かもしれないね、なんて話も、女房としておりました。実際、ラウルが田舎娘に変装する、というシーンがあって(あんまり言うとネタバレになるのでこれくらいにしておきますが)、「ばらの騎士」のオクタヴィアンや、「フィガロ」のケルビーノを思わせるシーンもある。ルコックがどちらのキャストを想定してこの曲を書いたのか・・・今度の舞台にご来場になったら、舞台をそんな風に眺めてみても、面白いかもしれません。

ロココ調の美しい壮麗なメロディーが流れたか、と思えば、それが突然、しっちゃかめっちゃかのドタバタ芝居に急展開してしまう、支配人のY氏の言葉を借りれば、「おもちゃ箱を引っくり返したような」魅力あふれる作品。時々、びっくりするほど悲壮感に溢れる流麗な曲や、実に陶酔的な美しいメロディーが表れて、女房ともども、「なんだか『無駄』に美しい場面があるよなぁ」と言い合っております。コミックソングの楽しさもそうですが、時々現れるそんな甘美なメロディーも、大きな聞きどころの一つです。

・・・なんて宣伝しながらも、個人的には相当困っている。前にも書いたとおり、かなり短期集中型で作りこんでいるので、ちょっと油断するとすぐ歌詞を間違えてしまったり、段取りがストン、と抜け落ちてしまったりする。メモを取る暇もなく、がんがん詰め込んでいるので、どれがどの指示だったか、なんだか訳がわからなくなってしまったりする。ソリストの方々も、同じような状況の下で、連日がんばってらっしゃるので、合唱陣としても手をゆるめるわけにもいかない。ついに今週末に迫った本番、とにかく踏ん張るしかないので、ご来場、ご声援、ちょっとしたミスやトラブルには目をつぶるご寛容、何卒よろしくお願いします!