経済と文化の関係性続き

昨日、「経済人にも、もっと文化に参加・理解してほしい」という話を書いたら、Ogishimaくんから、「それは文化の側の甘えであって、文化の側からのアピールが足りない」というコメントが来ました。コメント欄でやりとりしようかな、と思ったけど、中々面白いテーマのようなので、本文で、ちょっとこの議論、展開させてみたいと思います。

私の意見とOgishimaくんのコメントというのは、同じ問題意識の表裏一体なのかな、という気がします。つまるところ、文化を発展させていこうと思ったとき、経済による文化の支持・援助というのは不可欠である、という共通認識においては一致している。そして、日本において、経済と文化の関係が、往々にしてあまり良好でない、という問題意識においても、恐らく一致している。その解決方法として、私が、「だから経済の側は文化をもっと理解してほしい」といい、Ogishimaくんは、「だから文化の側から、自分を理解してくれるように経済に対してアピールするべきだ」という。たぶんどちらも正しい。

Ogishimaくんの観点の面白いところは、文化・芸術であっても、「興行」=経済活動として有用であると捉えられた時に、経済の側からの援助をきちんと受けられるようになるのだ、という主張。つまるところ文化の側から、「オレたちはビジネスとして成立するぜ」というアピールをきちんと行うことが大事、ということなんですね。実際、劇団四季があれだけ成功した裏側には、「演劇をビジネスとして成り立たせることができる」という、経営者浅利慶太の行政へのアピールがあり、そしてそれが実際、ビジネスとして成功することで、行政側からの援助も厚くなる、という相乗効果が生まれたから。

ただ、浅利慶太的手法、というのが多少なり「胡散臭さ」をまとってしまうのは、その成功が、彼の創造性よりも政治力・経営力によるところが大きい印象を周囲に与えてしまうところ。浅利慶太の例を引くまでもなく、実力的にはさほどでもないオペラ歌手であっても、確かなチケット販売ルートを持っている=興行を成功させる力を持っている、という理由で、大きな舞台を任されているソリストなんてのも、この類型に入る気がする。つまるところ、文化の創造性と、その創造性に価値を見出した経済との幸福な共存、という現象ではなくて、なんらかの政治力を持った文化人が、腕力で経済界の援助をふんだくってくる、という、どこか釈然としない関係性が垣間見えるケースが、世の中結構多いよなぁ、ということ。

そういう釈然としない関係性の背景には、実は、もっと情けない話として、文化を支援する経済側の方に、「オレは面白いぜ」とアピールしてくる文化のよしあしを判断する判断力がない、という、実に悲しい現実が横たわっている気がすごくするのです。「オペラとか、芸術とか、よく分からんけど、なんか親戚の子が出るみたいだから」とか、「あいつは大学時代の友人だから」といった、人脈とか、文化人側の政治力によって、「なんかよく分からんけど、あいつが言ってくるから、援助してやるか」というレベルでしか芸術を支援できない、そういう情けない状況があるんじゃないだろうか。

私が、「経済の側に、文化への理解が足りない。経済人よ、もっと趣味人たれ!」と主張するのは、文化に対して価値を見出す経済人自身が、創造的な文化を見極める、優れた「目利き」であってほしい、という思いからです。経済人が、自らの鑑賞眼によって優れた芸術家を見出し、育成し、支援する。その支援によって、その芸術が、「興行」=ビジネスとしても成功していく。それが最も幸福な関係なのじゃないか。実際、かつての芸術家の影には、必ず、その芸術家の才能を信じて財を投じたパトロンがいました。そういう自分の審美眼に自信を持って財を投入するパトロンの行動が、賞賛された社会的背景もあったと思います。

以前の日記にも書きましたけど、ITベンチャーで巨富を得た若い経営者が、宇宙に行ってシャアのコスプレをやるのが「文化」だと主張するのが今の日本です。優れた審美眼を持って、優れたビジネス感覚で、文化を育成、ビジネスとしても成功させよう、という、そういう教養人としても一級の経営者ってのは、今の日本では望むべくもないのかなぁ。

Ogishimaくんも書いていた通り、「本当に優れたもの」を見極める目を持った経営者・経済人によって見出されないために、不遇を囲っている人がいる、という構造は、芸術の世界だけの構造じゃないんでしょうね。それを、その人自身のアピールが足りないのだ、と自省する見方も正しいし、そういう人を見出すことができない経営者・経済人側の見る目がないのだ、という見方も正しい。スポーツの世界でもそうだし、研究者の世界でも同じ問題はきっとある。ちなみに、トリノ五輪の男子モーグルで優勝したオーストラリアのデール・ベッグスミスさんは、IT企業の経営者だそうです。(女房から聞いた話。ファクト裏とりできず。)いいなあ、こういう話。三木谷さんとか、スキーで五輪に出たりしないかね。あの人はラグビーだっけ。