「キューティーハニー」〜どうしても受け入れられない悪趣味〜

庵野秀明さんと樋口真嗣さん、という二人の映像作家は、どうしても気になっちゃうんです。彼らが最初に注目された自主制作アニメの時代から知っている、という過去のぬぐいがたい経緯もあるんですけどね。同世代のアニメオタクの近親憎悪を含んだ親近感。彼らのこだわる部分がすごく理解できる一方で、撒き散らされる重箱のスミ追及型のマニア精神に辟易する。辟易しながら、理解できちゃう自分がイヤだ。なんて色々屈折しながら、どうも気になる。あえて映画館に足を運ぶ気にはなれないけど、CSやBSで放送されると思わず見てしまう。CSで放送してた「キューティーハニー」を思わず見ちゃったのは、そういう流れなんだよ。べつに佐藤江梨子が好きだ、なんてことは断じてない。永井豪の原作マンガや、アニメが好きだった、なんてことも全然ない。なんでのっけからこんなに言い訳しているんだ。見苦しいだろう。すみません。

庵野さんというのは、職人だと思います。アニメータ、という出自にもよると思うのだけど、一つ一つのシーンのカット割りのテンポ感が素晴らしい。冒頭、ハニーがアクアラインの「海ほたる」SAを舞台に繰り広げる戦闘シーン。極端なまでのデフォルメとその疾走感がほんとに楽しい。全編に渡って、どこまでもどこまでも遊び心溢れる娯楽映画。例によって例のごとく、マニアのこだわりは隅々に生きていて、ハニーの携帯の着信音がウルトラセブンのビデオレシーバの着信音だったり(それともあれは、ウルトラマンのトランシーバの着信音だったか?)、巨大化する宇津木博士のイメージが、ウルトラマンで巨大化したフジ隊員が街を破壊するシーンのパロディだったり、東京タワーをぶっ飛ばすシーンが過去の特撮作品へのオマージュだったりする。予想以上に楽しめる映画でした。

まぁねぇ、庵野さん独特のエヴァ現象も所々に出てくるけどねぇ。無駄なシークエンスも多いし、くだらねぇ、と切り捨てたくなるシーンも一杯ある。ストーリ的には庵野さんらしくなくあんまり破綻してないけどさ。途中、どう見ても佐藤江梨子のコスプレプロモーション映画になっちゃう場面が結構あって、そこで辟易。とはいえ、佐藤江梨子さん、中々いい味を出していたと思います。グラビアアイドル、なんていわれる人たちの中にも、きっちりした演技が出来る人がいますよね。市川実日子村上淳は、サトエリほどにぶっ飛べなくて、ちょっと辛かった。脇役陣は実に素晴らしい。篠井英介さん、手塚とおるさんの人間離れした演技も素晴らしかったけど、吉田日出子さんが相変わらずの味でよかった。何気に脇にいる岩松了さんも好き。及川光博さん、片桐はいりさんとか、キャスティングのセンスがいいよね。

でもねぇ、根本的に、永井豪、というマンガ家が描き出す世界、というのが、わたしにはどうしても受け入れられないんです。すごく底が浅い悪趣味、という感じがする。あれだけカルトな人気を誇るデビルマンにしても、原作を読んで「なんなのこれは」と思っちゃった口なんだよね。好きな方は多いと思うので、本当に申し訳ないんだけど、生理的にどうにも受け入れられない。映画版「キューティーハニー」でも、パンサークローの面々の描写とかが、すごく永井豪っぽい。そういう原作の雰囲気をきちんと描写した、という点では、さすが職人庵野、という感じなんだけど、そもそもああいうエログロ趣味がどうも受け付けないんだよなぁ。

この生理的な嫌悪感ってなんだろう、と思ったら、ティム・バートンの作品に対して感じるのと同じ嫌悪感だ、と気がつきました。バットマンの悪役たち、というのも、極端にデフォルメされたエログロ趣味で統一されている気がする。「キューティーハニー」の悪役たちと、バットマンの悪役たちを並べてみたら、ほとんど見分けがつかないんじゃないかなぁ。アメリカン・バッドテイストというか。日本人でありながら、そういうアメコミ的なテイストを持っている、という意味で、永井豪さんは確かにすごい存在なんだけど、個人的にはどうにも好きになれん。