小森輝彦・服部容子 デュオ・リサイタル〜常に挑戦的であること〜

昨夜、ガレリア座にもご縁のある小森輝彦さんのリサイタルに行ってまいりました。

小森輝彦・服部容子 デュオ・リサイタル
ドイツ・ロマン派音楽の魅力 〜シューマン・リスト・ヴァーグナー
東京文化会館小ホール

R.シューマン 詩人の恋 作品48
F.リスト 2つの伝説(ピアノ・ソロ)
歌曲 「先祖の墓」他4曲
R.シュトラウス 「アラベッラ」より
R.ヴァーグナータンホイザー」より
R.ヴァーグナーヴァルキューレ」より

という演目でした。
 
小森さん、という方は、ガレリア座の主宰のY氏の高校の後輩。その縁もあり、ガレリア座の旗揚げ公演の「こうもり」にゲスト出演していただいたことがあります。その後、あれよあれよと言う間に二期会の若手バリトンホープになられました。今回、ガレリア座のOさんからチケットの斡旋があり、飛びついた次第。

東京文化会館の小ホール、という場所、初めて行ったのですが、本当にいいホールですね。小ホールといいながら、天井がとても高くて、響きがまろやか。都内では、天井の低い空きスペースに無理やり詰め込んだ「小ホール」が多い中で、これは素晴らしい場所だなぁ。

シューマンの「詩人の恋」を全曲聞いたのも初めての経験だったのですが、素晴らしい曲ですね。小森さんの歌唱は、身につけられた輝かしい響きと、柔らかなピアニッシモダイナミクスが素晴らしく、ロマンティックな曲の世界を、ソフトに、かつクリアに聞かせてくれます。後半の数曲あたりでは、何か胸をえぐられるような切なさがこみ上げてくる、名演でした。

ピアノの服部容子さんのお名前は、先日家族で見に行った「アラジンと魔法のランプ」の中にも、音楽スタッフ、というクレジットで拝見していたのです。ピアノソロで弾かれた、リストの「2つの伝説」の演奏は、絶え間なく流れる鳥のさえずり、絶え間なく歌う風のざわめきを、見事に表現した演奏。分散和音の一つ一つの音の粒がとてもクリアで、しかも淀まない。鳥や風などの自然の中に包み込まれていくような、そんな浮揚感と心地よさにぼおっとなっておりました。

ヴァーグナーはどうにも苦手なので、最後の二曲にはちょっと入り込めなかったのですが、譜めくりをつけずに一瞬でページを繰りながら見事に伴奏を弾きこなした服部さん、ソフトさ、甘さ、輝かしさ、伸びやかさを兼ね備えた小森さんの歌唱に、ただただうっとりと聞き惚れておりました。アンコールの「ラ・マンチャ」も見事。

隣で聞いていたS弁護士が、「安易に流れない、実に野心的な演目だね」と感心していました。小森さん自身、「相当ヘビーなプログラム」とおっしゃっていましたが、まさに伸び盛り、旬の若手歌手が、自分のできる範囲に収まらず、チェレンジングでアグレッシブなレパートリーに挑戦する姿に、頭が下がりました。ただ挑戦するだけなら誰にだってできるだろうけど、挑戦しつつ、見事なパフォーマンスに仕上げてくる所が素晴らしい。要するに、自分の実力をきちんと測りつつ、安易に妥協しないで、「もう少し上」を目指す姿勢と、それをきちんと仕上げてくる実力。

今後、間違いなく日本を代表するバリトン歌手になる方の、一番旬の歌唱を聞けたような、そんな贅沢な気分で、上野を後にしました。会場では、大学の合唱団の先輩で、小森さんの学校の先輩でもあるEさんに久しぶりにお会いでき、帰りの電車の中で旧交を温めることもできました。それにしても文化会館ってのは、演奏会が終わった後もハレの気分をそのまま持ち帰ることができる、ほんとに素敵なホールだよね。

明日から夏休みで、田舎に帰省。この日記もしばらくお休みです。夏休みの開幕を告げるような、本当に素敵な時間を過ごすことができました。小森さん、服部さん、本当にお疲れ様でした。素晴らしい演奏をありがとうございました。