「アラジンと魔法のランプ」〜お見事!〜

今週末から夏季休暇に入るので、今週はほとんど心ここにあらず、という感じです。いつもはちゃんとここにあるのか。あんまりないですね。シュレディンガーの猫状態。あると見ればある。ないと見ればない。見ないと分からない。何を言ってるんだ。すみません。

例によって、週末の活動からいくつか。

・木曜日、ガレリア・フィルハーモニー演奏会の打ち合わせに第一生命ホールへ。いいホールだなぁ。
・土曜日早朝から、なぜか録画しておいた「新耳袋」のシリーズを見る。怖いぞぉ。
・土曜日、日生劇場に、「アラジンと魔法のランプ」を見に行く。お見事!
・日曜日、ガレリア・フィルハーモニーの練習を見学。オケの練習って面白い。

今日は、「アラジンと魔法のランプ」の話を書きます。
 
アラジン : 志田 雄啓
魔法使い : 青戸 知
姫 : 石田 亜希子
アラジンの母 : 加納 里美
王様 : 清水 宏樹
大臣 : 武田 直之
ランプの精 : 志村 文彦
指輪の精 : 中西 勝之
姫の友達 : 田上 知穂
姫の友達 : 市川 奈央子
姫の友達 : 落合 智子
アラジンの友達 : 吉田 知明
合唱(アラジンの友達)
: ニッセイ・フェスティヴァルアンサンブル
演奏 : 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

作  曲 : ニーノ・ロータ
台  本 : ヴィンチ・ヴェルジネッリ (千夜一夜物語より)
ドイツ語台本 : クリスチャン・シューラー
ドイツ語テキスト : エルケ・ハインデルライヒ
日本語訳 : 柴辻 純子
美  術 : ケアスティン・ファーバー
衣  裳 : マヌエラ・ヴローベル
照明デザイン : グィード・ペッツォルト
ヘア・メイク : リゥディガー・シュトローム
舞台監督 : 幸泉 浩司
音  響 : 山中 洋一
音楽スタッフ : 服部 容子  冨平 恭平
演出助手 : 斎藤 恵理
 
という布陣でした。
 
娘に見せる最初のオペラを何にしようか、というのは、以前から我が家の一つの課題でした。いきなりヴェルディのドロドロを見せるのも問題だしね。カルメンってのもかなりドロドロだしなぁ。モーツァルトなら楽しいだろう、と思って行ったらいきなり覚せい剤出てきたりするし。かなり公演を選ばないといけないけど、かといって、あんまり子供に摺り寄ったような企画は嫌い。ちゃんと本物のオペラを、きちんと聴かせてくれるプロダクションで、なおかつ娘が飽きないような演目ってのは、ないもんかねぇ。

と思っていたら、「子供のためのオペラ」というこの企画を女房がネットで発見。「アラジン」の話なら良く知ってるし、新宿オペレッタ劇場でお知り合いになれた中西勝之さんが、指輪の精で出られるという。調布の幼稚園の父母つながりで、こちらが一方的に親しみを持っている青戸知さんも出演されている。これなら、娘も楽しめそう。チケット完売状態のところを、中西さんにお願いし、チケットを手配していただきました。ほんとにありがとうございました!

日生劇場という劇場は初めて行ったのですが、とても素敵な劇場ですね。観劇という「ハレ」の場にふさわしく、ガウディの建造物を思わせる深海のような神秘的な内装。客席から舞台の距離感もいい。入り口から劇場へのアプローチあたりは、銀座のお買い物気分をそのまま持ち込んでお芝居を見に行く、という感じ。娘も、赤い絨毯の階段をえっちら登りながら、もうワクワク。

会場は子供と親御さんの家族連れがわんさか。ロビーでは、子供が舞台を見やすいように、椅子に置く四角いクッションを配っています。赤い四角いクッションを抱えて、すわり心地を確かめたり、劇場の中をちょっと探検したり。夏休みの子供のイベント、という感じでわちゃわちゃしている家族連れの間で、我々家族も同じようにわちゃわちゃしておりました。

オケピットはすごく狭くて、ミュージカルのピットくらいの広さしかないのだけど、編成はそうとう大きい。ピットを覗いた娘が、黒ずくめの人たちがごちゃっと固まっている姿に、「おっこちそうで怖いよう」とおびえる。これは随分と本格的な編成だなぁ、とまずびっくり。

ニーノ・ロータのオペラ、というのは、以前クラシカ・ジャパンで、「フィレンツェの麦わら帽子」というオペラを放送する、という情報を見たことがありました。「あのニーノ・ロータが、オペラを作曲しているんだ」とびっくり。ところが昨夜、少しお話した、ガレ・フィルの指揮者の角田鋼亮さんに聞いたら、「ニーノ・ロータは、自分のことを、オペラ作曲家だ、と言っていたんですよ。映画音楽とかはあくまで副業だ、と。オペラも、7つか8つくらい作曲しています。」とのこと。へぇえええぇ。今回の演目は、ニーノ・ロータの作曲したオペラを、ケルン市立歌劇場が子供向けに再編成したものだそうです。1時間ちょっと、幕間なしで一気に上演されました。

冒頭の序曲、ランプのシルエットが紗幕に浮かび上がり、シェーラザードの子守唄を思わせるメロディで、語り部風の男装の麗人が、客席から歌いかける。この印象的な冒頭から、洞窟のスペクタクル、指輪の精・ランプの精の魔法の数々と、見所いっぱいに構成された見ごたえのある舞台。客席からお姫様が登場したり、魔法使いの持つ新しいランプが金魚の形をしていたり、細かい工夫が一杯散りばめられていて、客席の子供たちも飽きるヒマもない。娘も舞台を食い入るように見つめていました。実に考え抜かれた妥協のない演出。

それ以上に驚いたのは、子供向け、という企画にも関わらず、音楽のアンサンブルが全く手抜きなく、極めて完成度が高かったこと。冒頭の合唱から、それぞれのソリストとオーケストラのアンサンブルがすごくしっくりきている。ニーノ・ロータの音楽そのものも実に流麗。子供向けのオペラを見た、という感覚ではなく、ニーノ・ロータの珍しいオペラの日本初演公演を見た、という感覚で、大人も大興奮してみることが出来ました。お見事、の一言です。

ソリストで言えば、青戸さんの堂の入った悪役ぶり、お姫様の石田亜希子さんの可憐さ、それに、冒頭とラストに語り部として歌われた田上知穂さんのクリアな日本語さばきが印象的でした。田上知穂さんはとても美しい方で、男装が決まってたなぁ。

お目当ての中西さん。ランプの精の志村文彦さん共々、おいしい役をきっちりこなしてらっしゃいました。こういう役を、こういう企画でもらうと、ヘンに子供に媚びてしまったいやらしいお芝居になりそうなところですけど、お二人ともある意味非常に端整に演じてらっしゃいました。なによりお二人とも、声の響きと色艶が本当に美しく、日本語歌唱も明確だし、声が耳に心地よい。中西さんはホントにいい声だなぁ。いつか紅白に出てくださいねぇ。

一つだけ難を言えば、PAの問題なのか、オケとのバランスの関係もあり、日本語の歌詞が聞き取りにくく、ちょっと子供にはつらいかなぁ、という場面が少しありました。冒頭の合唱など、アンサンブルとしてはとても聞き応えがあるのだけど、歌詞がところどころ聞き取れなかったなぁ。まぁよく知られたお話だから、そういう意味では、予習済みのオペラを原語で聞くような感覚で聞けましたけど。

女房ともども、娘に初めて見せたオペラとしては、実に理想的な演目だった、と大満足。娘は、客席をムチを持って走り回っていた大臣が一番面白かったそうです。子供向けの舞台だからといって一切妥協することなく、ニーノ・ロータの美しいオペラの世界を垣間見せてくれたスタッフの方々、出演者の方々、オーケストラの方々に、心からブラボーを送りたいと思います。素晴らしい演奏を、本当にありがとうございました。