新国立劇場 コジ・ファン・トゥッテ〜シンプル イズ ベスト!〜

21日、新国立劇場に、「コジ・ファン・トゥッテ」を見に行きました。今日はその感想を。

指揮:ダン・エッティンガー
演出:コルネリア・レプシュレーガー
フィオデルリージ:ヴェロニク・ジャンス
ドラベッラ:ナンシー・ファビオラ・エレッラ
フェルランド:グレゴリー・トゥレイ
グリエルモ:ルドルフ・ローゼン
デスピーナ:中嶋彰子
アルフォンソ:ベレント・ヴァイクル
オーケストラ:東京交響楽団

という布陣でした。

以前にもこの日記で、「コジ・ファン・トゥッテ」というオペラはすごく好きだ、という話を書いたと思います。モーツァルトの数あるオペラの中でも、「コジ」は一番好きかもしれない。その苦味。その軽味。そしてその音楽の美しさ、楽しさ。今回の新国立劇場での「コジ」は、女房が、「絶対いいから絶対見に行こう」と以前から言っていて、まずは私が21日の初日の舞台を、そして、女房が27日の舞台を見にいく、という分業体制で臨みました。子供の面倒を留守番する方がみる、という体制です。さらに、片方が見て、見落としたところや、日によって違ったところなどを後から確認しあうのも、こういう体制の楽しみだったりします。

さて、女房ご推薦の通り、本当に素晴らしい舞台でした。全体に、すごく新鮮で、すごく若々しい感じのする舞台だったと思います。演出の方がお若いせいなのかもしれないですが、音も歌も実に軽やかなんです。何もかもがシンプル。シンプルだから余計に、構造がすっきりしていて、とても分かりやすい。以下、ネタバレの部分もあるので、ご覧になっていない方は読み飛ばしてくださいね。

今回の演出の軸になっているのは、フェルランドとフィオデルリージの「冗談のカップル」が、「真実のカップル」になってしまう、というストーリです。パンフレットにもあったのですが、この二人、第一テノールと第一ソプラノなので、そもそもオペラの定石でいえば、この二人がカップルで当たり前。曲全体も、この二人のソロ曲やデュエットを軸に構成されていますし、演出家が、「音楽がそのように書かれていますから」というのは、すごく納得がいく。そのメインストーリーに向けて、いくつかのシーンが布石として用意されているのですが、これが実にシンプルでお洒落で、かつ効果的。このメインストーリーのおかげで、それぞれのキャラクターの性格が実にくっきりして分かりやすくなりました。

歌い手の中では、なんといってもジャンスさんの歌唱にしびれました。2幕のフィオデルリージのソロでは、一切大きな声を張り上げない。常にピアノとピアニッシモの間で、実に豊かに感情の揺れ動きが表現されていく。そのコントロールの素晴らしさ。

他のキャストもそれぞれに素晴らしかった。ヴァイクルはちょっと調子が悪かったのか、音程が若干乱れたような気がするところがありましたけれど、やっぱり貫禄の存在感。男性二人も色気があって、そのくせヘンな雑味のないまっすぐな歌唱。素晴らしい。エレッラはカルメンの時よりもこういう役の方が合ってるんじゃないかなぁ。軽やかでとってもキュート。中島さんはこういうキャストに囲まれてしまうと声量のなさがちょっと目立ってしまうけど、デスピーナという役は、逆に声量のないアジア系の歌い手には得な役かもしれないですね。コケットな感じが出て、とても素敵でした。

歌い手のアンサンブルは見事でしたが、オケの軽やかさ、軽いのに豊かな音色にも感激しました。一緒に見ていたガレリア座コンマスのS氏が、「対向配置の上に、あまりビブラートをかけないピリオドアプローチ的な音の軽味が絶品」と激賞。1幕フィナーレの疾走感は素晴らしく、また、歌の頭や、アンサンブルの一瞬の空白の時間、一瞬の沈黙の時間、「間」の取りかたが絶妙。それがコメディの可笑しさや、その場の緊張感を、きゅっと締めるんです。実にいい演奏でした。

初日、ということもあり、演出的にはこなれていないところもないわけではなかったです。冒頭はじめ、ところどころでコロスとして現われる合唱陣は、歌う場面以外の演技の場面が、どうしても素人臭い。群舞としてきちんと見せることができるバレエの人たちで処理してほしかったなぁ。お金的にも無理があるんだろうけど。ヴァイクルがお盆を踏んづけてお茶碗を割ってしまったのはご愛嬌ですが、それ以外にも、前の場面で放置された布などの小道具が次の場面まで処理されないまま舞台に残っていて、それが何かを意味するのか、と思えば、何も意味を与えられないままポイ、と捨てられてしまったりする。そういう細かいところへの配慮をもう少し考えてくれると、もっと素敵な舞台になったんじゃないかなぁ。

・・・なんて、偉そうなことを書きましたが、回り舞台を効果的に使い、色んな道具や色んな大道具にそれぞれに意味を持たせた舞台は、シンプルでありながらすごく楽しめました。例によって張り切って着物を着ての観劇でしたが、天候もおだやかな着物日和で、充実した時間を過ごさせてもらいました。一緒に見ていたS弁護士の奥様のCさんも、「東京でこんな素晴らしいプロダクションが見られるなんて」と感激してました。新国立劇場、頑張ってます!!