全ての人々に、よいお年を!

いよいよ年の瀬も押し迫ってきましたね。今年も一年、本当に盛りだくさんに過ごさせてもらえました。沢山の舞台。沢山の演奏会。色んなインプットやアウトプットを通して、去年の自分とは随分違う視点を身につけたような気がしています。

この日記に駄文を載せる習慣も、その一つ。様々なインプットの中で自分の感じたことをこうやって文章にまとめることで、自分の収穫物がなんだったのかをきちんと確かめ、整理する作業。どこか漫然とやり過ごしてきた日々が、きちんと引き出しの中に整理されて並べられたような、そんな気がしています。

そんな日記の更新も、今年は今日で最後としたいと思っています。ありがちな企画だけど、今年の様々なインプットの中でも、自分にとって最も大きな収穫だった、と思えるインプットを3つ、あえて選んでみました。

(1)ゲルギエフの「悲愴」
(2)大船渡での蔵しっくこんさぁと
(3)大田区民オペラ合唱団の「ヴェルディのレクイエム」

他にも、サントリーホールでのガレリア座10周年記念コンサートとか、一人芝居とか、色んな経験をさせてもらいました。でも、自分自身が音楽に向かっていく姿勢というか、自分にとっての舞台の意味のようなものをきっちり自覚させてもらえた、という点で、この3つのイベントは非常に大きな意味があった、と思っています。

ヴェルディのレクイエムでは、演奏する楽曲に真摯に向き合うこと、「自分を表現する手段としての音楽」ではなく、「音楽を表現する手段としての自分」を如何にして磨くのか、という、発想の大転換がありました。

蔵しっくこんさぁとでは、音楽を通して、幸福な時間を共有することの幸せを、全身で感じることができました。音楽というのものの力、それは、その場を共有する人々の全てを幸せにできる力なのだ、ということを、本当に実感させてくれた体験でした。

そして、中でも、ゲルギエフの「悲愴」を聴けたこと。サントリーホールのあの場所にいられた、ということは、たぶん自分の人生観・音楽観が変わるほどの事件だった、と思っています。チケットを手配してくれたSさんには本当に感謝したい。あの演奏を聴いたことで、自分のパフォーマンスへの意識は確実に変わりました。

今、3月の「乞食学生」公演に向けて、次第に自分の中の意識が変わってきています。音楽の楽しさ、お芝居の楽しさ、オペレッタの楽しさを自分自身が目一杯楽しむこと。それと同時に、新宿文化センターに集まったお客様の一人一人を、どれだけ楽しませることができるか、ということ。みんなが幸せな時間を共有できること。それが、舞台にいる自分の役割なんだ。そのために、自分の表現能力を磨くんだ。

この一年、悲しいことが沢山ありました。さきほども、大津波に呑まれた多くの子ども達のニュースを聞きました。世界中に数え切れないほどの不幸が溢れている。もしそうなら、私にできることは、少なくとも、一人でも多くの人に、幸せな時間をあげること。たとえ1時間でも、10分でも、あるいは一瞬でもいいから、自分以外の誰かを、幸せな気分にしてあげること。それが自分にできる精一杯のこと。

そして、折角、舞台という場所を与えられているなら、歌や演技という表現手段を与えられているのなら、客席に集うお客様全員が、幸せな気分になれるように、自分自身の表現を磨くこと。自分の能力の全てを使って、お客様に音楽を伝えること。自分の声を、幸せな気分を、一人でも多くの人に伝えるんだ。声を失っても、笑顔一杯に、体全体で幸福な気持ちを届けてくれる、あの手話の子ども達のように。

来年が、全ての人々に幸福な一年でありますように。みなさま、よいお年をお迎えください。